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【演劇(感想)】ケエツブロウよ−伊藤野枝ただいま帰省中−

 2024年5月29日(水)、新宿の紀ノ國屋ホールで、『ケエツブロウよ−伊藤野枝ただいま帰省中−』を観劇しました。遅くなりましたが、感想や考えたことを記載します。
 劇団青年座創立70周年記念とありました。

■はじめに

 本作は、伊藤野枝(1895・明治28〜1923・大正12)の半生を描いた作品で、副題に「帰省中」という言葉があるように、郷里の親戚・親兄弟との関係にも焦点を当てています。
 Wikipediaによると伊藤野枝は、日本の婦人解放運動家、無政府主義者、作家、翻訳家、編集者とあります。これらひとつひとつの肩書を見て、舞台と照らし合わせても、彼女の様々な要素が織り込まれていました。
 題名にある「ケエツブロウ」は、海鳥のことです。福岡の俚言・俗語なのでしょうか。伊藤野枝は海鳥に訴えかけるような詩を書いています。『東の渚』(青鞜1912年11月号)という詩のようです。青空文庫にもありましたので、リンクを貼ります。

■あらすじ

明治45年(大正元年)の夏、福岡県糸島郡今宿の海辺の家。
17歳のノエは進退窮まっていた。東京の上野高等女学校を卒業したものの、決められていた地元の男との結婚がイヤで、実家を飛び出したのが春の終わり。
女学校の恩師だった辻潤のもとへ身を寄せ、「青鞜」の平塚らいてうとも出会い、正式に離婚するために戻ってきたものの、親族はそろって猛反対。といって東京に戻る金もなく、毎日が針のムシロである。
そんなある日、ノエの姿が見えない。部屋から出てきたノートの切れ端には「どうせ死ぬならケエツブロウよ、かなしお前とあの渦巻へ――」と謎の文句が書かれており、

公演プログラム、および、劇団青年座HPより抜粋

 結局、このとき野枝は、押し入れに隠れているのですが、ここの場面だけでも、家族とのほのぼのとした関係や、今後の伏線が張られているようで、面白い場面だなと思います。
 以下、気づいたことを記載していきます。感想①〜④です。

■感想①:帰省と家族

 伊藤野枝(演:那須凛)は福岡に生れ育ちました。東京に出て活動しますが、時々帰省します。
 実家の家族が、野枝の婦人解放運動などを認めていたのかは分からないのですが、受け入れる、人生の土台や戻る場所となるような懐の深さがある家族のように描かれていました。
 騒ぎになった後、家族が虹を見る場面があり、つかの間なのかもしれませんが、希望が差し込んだような場面で印象に残りました。特に私は、野枝のお墓の問題なども絡んで、父親(演:綱島郷太郎)や叔父さん(演:横堀悦夫)の描かれ方や関係に関心が残りました。叔父さんの台詞に出て来る頭山満(1855〜1944)は、メモって帰り自宅で調べました。

 また、九州出身の私は、「〇〇ばい」といった方言や「精霊流し」など懐かしく思いましたし、自分の帰省と重ねて観る部分もありました。

■感想②:わがままについて

 野枝の行動・活動は、「わがまま」と言われることも多いようです。彼女に対する評価は別として、野枝の台詞の中に、次のようなニュアンスの言葉があり、私の中では一番印象に残りました。

「自分の自由やわがままを主張する者は、他の人の自由やわがままを認めないといけない。」
(※本当にニュアンスですみません!台本を読んでみたいぐらいです。)

 この点は、私は、現実社会でも感じることがある部分です。自分だけ特別に自由を主張するのではなく、他人が(他人から)同様のことをしても(されても)許容出来るか、一種、腹を括るような部分が必要なのかな、と考えたりしました。

■感想③:〇〇せざるを得ない

 これは、劇中になく、派生して私が考えた部分です。時々、「書かずにはいられない」といった形で、「〇〇せざるを得ない」という表現を聞いたり、目にしたりすることがあります。

 少し論理的に考えてみました。「場合によっては他人から批判されたり、他人に迷惑をかけたり、波風を立てることがあるかもしれないが、その反作用・副作用を考えても、行動するべき大きな目的があったり、駆られる衝動が沸き起こったりする。」ということでしょうか。

 野枝が机に向かって、辞書や本を引いたり、執筆している場面が何回かあり、考える部分でした。私も、noteに感想を書いたりしていますが、SNS等でそこまで情報発信したいと思う方ではなく、他のクリエイターの方々はどうなのだろうと思ったりしました。

■感想④:直球勝負

 終盤、伊藤野枝が夫である大杉栄(演:松川真也)と二人で掛け合う場面がありました。二人の子どもに対する情愛もあります。二人の歴史における位置づけに加え、人物設定もあり、結構パンチが効いていました。生で人間のエネルギーが伝わってくるのは、読書とはまたひと味違う観劇の面白さのように思います。

 また、伊藤野枝の人生についても、野枝の妹と村木源次郎のやり取りの中で、「自分の信条を貫いたよい人生だった」「こんなことが許されてよいのか」と大きな二つの見かたが示されていました。

 これらの場面も含め、ストレートに構成(執筆・演出・演技される)された舞台だったように思います。直球勝負です。

■最後に

 感想を4項目に分けて書きましたが、もっと様々な論点があり、色々な見方が出来て、色んな感想が生まれる舞台だったように思います。上演時間は2時間40分でしたが、伊藤野枝の人生が、余す所なく詰められた舞台でした。


■公演概要メモ

  • 作=マキノノゾミ

  • 演出=宮田慶子

  • 日程:2024年5月24日(金)~6月2日(日)

  • 会場:紀伊國屋ホール

  • キャスト:ノエ(那須凜)、与吉(父、綱島郷太郎)、ウメ(母、松熊つる松)、ツタ(妹、松平春香)、サト(祖母、土屋美穂子)、代準介(叔父、横堀悦夫)、キチ(叔母、遠藤好)、キミ(従妹、角田萌果)、世話役(小豆畑雅一)、辻潤(伊東潤)、大杉栄(松川真也)、村木源次郎 (古谷陸)、西山錬太郎 (岡本大樹)

本日は、以上です。

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