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闇バイトの憂鬱

*ヘッダー画像は「めざまし8」より

うちの近所で重大事件が発生しました。

16日午前9時25分ごろ、横浜市青葉区鉄町の住宅で、手足を縛られた高齢の男性が亡くなっているのが見つかった。神奈川県警によると、男性は住民の無職後藤寛治さん(75)で、広範囲に暴行された痕跡と出血があった。県警は殺人事件として捜査するとともに、首都圏で相次ぐ広域強盗との関連を調べる。
(時事ドットコム 2024/10/16)


うちは川崎市麻生区の柿生なので、「横浜市青葉区鉄(くろがね)町」は一見遠そうですが、実は近い。

事件があったのは、横浜といっても「浜」ではなく、山側で、川崎との市境のすぐそばです。

数日前、私は「柿生のヤクザとスズメ」という記事で、柿生の「早野」という地域に、暴力団事務所があることを書きました。

その早野に接するのが、今回の現場「鉄町」なのです。(組事務所は事件に関係ないと思いますが)

その間の高台には、野球で有名な桐蔭学園があります。

ANNニュースより
おおざっぱな位置関係(google mapを使用)


文学に詳しい人は、「鉄町」という地名にピンと来たかもしれません。

ここは、かつて作家の佐藤春夫が住み、名作「田園の憂鬱」(1917)の舞台となったところです。


田園の憂鬱とは

都会の重圧と喧噪に苦しみ、己の生の意味を見失った青年が、愛人と二匹の犬と一匹の猫をかかえて草深い武蔵野の一隅に移る。青年は土と雑草と丘陵を見つめ、憂鬱と倦怠を噛みしめながら、自己の内部に沈静する。絶間のない幻覚、予感、焦躁、模索……。青春と芸術の危機を語り、様々な自然の事象を官能的な筆致で描いた本書は、著者の代表作であり、浪漫派文学の不朽の名作である。

(新潮文庫「田園の憂鬱」解説)



ニュースでは、「横浜の住宅地」というばかりで、名作の舞台だという点に触れた報道は、私の見る限りありませんでした(まあ関係ないからね)。

現場の鉄町には、いまも「田園の憂鬱」の文学碑があります。

横浜市青葉区鉄町の「田園の憂鬱由縁の地」という文学碑(2020年撮影)


私の住む柿生と、この「鉄町」は、かつて一体でした。

柿生の片平に住んだ河上徹太郎が、こう書いています。


この小説(田園の憂鬱)の舞台になっている、当時の名称でいうと神奈川県都筑郡中里村字鉄(くろがね)は、今私が住んでいる小田急線沿線の柿生から東南約二里の所にある。その後無粋にも、私の村は川崎市に、佐藤氏がいた鉄は横浜市港北区に編入された
(「都筑ヶ丘の風物」1954)


このnoteで何度も書いてきましたが、川崎市麻生区と横浜市青葉区は、古代から同じ「武蔵国都筑郡」でした。明治になってもその地名が残っていたのですが、次第に現在のような行政区になり、1940年に「都筑郡」は消滅しました。

上の河上のエッセーが書かれたのが1954(昭和29)年なので、鉄が横浜市港北区になっていますが、港北区は1994年に再編されて青葉区になっています。また、河上が住んだのは現在の小田急多摩線「栗平」駅の近くですが、多摩線が1974年に開通するまでは「柿生」が最寄でした。


まあ、何が言いたいかというと、事件現場の鉄町は、今は「住宅地」だが、もとは「田園」だったということ。今も田畑が多く、ニュースで「横浜の住宅地」と聞いて人々が想像するだろうのとは、ちょっとちがう。

もっと昔は、鉄鍛治で栄えたので、「鉄町」となったのだろう、と郷土史の本で読んだことがあります。近くには三輪山(町田市)など奈良にゆらいする地名があり、おそらく古代に奈良から当時の先端技術者である鍛冶屋が移住していたのだろう、と。


このあたりの「田園」の特異な美しさは、まさに佐藤春夫が「田園の憂鬱」で描写しています。

河上も上の文章で引用している「田園の憂鬱」の書き出しは、こうです。


広い武蔵野が既にその両端になって尽きるところ、それが漸く山国の地勢に入ろうとする変化ーー言わば山国からの微かな余情を湛えたエピロオグであり、やがて大きな波打つプロロオグでもあるこれ等の小さな丘は、目のとどく限り、此処にも起伏して・・


今は開発でかなり変わりましたが、それでも当時の面影がよく残っている地域です。



さて、そんな場所で起こった、今回の凶悪事件ですが。

70代の年寄りを縛って、暴行をくわえて死に至らしめる。同じ年寄りとして、その残忍さにぞっとします。複数人の足跡があることから、複数で暴行したらしい。

このところ首都圏で、似たような事件が頻発しています。

「めざまし8チャンネル」より


襲われているのは、やはり似たような「田舎」の一軒家です。

犯行が粗暴で、かつ計画が杜撰で粗忽なのが特徴。

闇バイトで、素人が集められての犯行だろう、という観測がもっぱらです。


さっき私は、「前科三犯・懲役太郎」さんが事件を解説する動画を見ていました。

【注意!】なぜ連発? 首都圏で連発している犯罪の仕組み その対策方法を解説します(懲役太郎サブチャン 2024/10/17)


これまでの闇バイト犯罪は、実行役は素人でも、指示役はプロだったのですが、最近は指示役も素人ではないか、と分析しています。

昔は、田舎の一軒家には番犬がいた。知らない人が来たら吠えて知らせたものだが、今は動物愛護とかの事情で、外で犬を飼う人が減ったーーと懲役太郎さんは言ってました。

そういえば、「田園の憂鬱」でも、作者(佐藤春夫)はいつも2匹の犬を連れて散歩していましたね。

日本では、一般に銃を所持できないから、番犬がその代わりをしていたのでしょう。

今は、今回の事件のような犯人に対し、自衛の手段がありません。

田舎の一軒家に住む年寄り世帯は、民間警備会社と契約せよ、というのが懲役太郎さんのアドバイスでした。



<参考>


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