石原裕次郎「城取り」に感動した朝
きのう、17日朝は、朝飯の準備をしながら、とくに目的もなくチャンネルNECOをチラチラ見ていました。
そこで、朝6時から、「城取り」という映画をやっていたのです。
モノクロの時代劇だから、最初は戦前の映画かと思いました。
近衛十四郎が出てきたので、戦後すぐの映画かなと思いました。
でも、次に石原裕次郎が出てきて、いつの時代の映画かと混乱しました。
ともかく、モノクロながら映像が美しく、撮影も、セットも、衣装も素晴らしい。
そして、音楽がまた立派で、なんだこれはと思った。
一見して、一流の雰囲気がある映画があるでしょう。「ゴッドファーザー」とか。そんな雰囲気ある映画なのです。
でも、「城取り」なんて映画、私は初めて聞きました。
そこで、朝飯をかっこみ、座りなおして、真剣に見たわけです。
以下が、チャンネルNECOのHPにある情報です。
城取り
司馬遼太郎が石原裕次郎の依頼で書き下ろした『城をとる話』を原作に、伊達家の出城を乗っ取ろうとする破天荒な男の活躍を描いた痛快時代アクション。初めて本格的な時代劇に取り組む裕次郎と、剣戟スター・近衛十四郎との対決シーンや、日活映画初出演の中村玉緒との共演も見逃せない。時は戦国末期。徳川時代に移ろうとしている世の中で、ただ一人家康公に楯突く上杉景勝の男意気に惚れこんだ車藤三は、上杉領の横取りを狙う伊達の出城の乗っ取りを企む。
監督:舛田利雄 原作:司馬遼太郎「城をとる話」 出演:石原裕次郎 近衛十四郎 千秋実 中村玉緒 芦屋雁之助 藤原釜足 松原智恵子 石立鉄男 藤竜也 滝沢修
1965年・日活・137分・モノクロ・ワイド放送
ここに情報がないですが、音楽は黛敏郎でした。
いやー、こんな立派な映画が作られてたんですねえ。
上の情報にありませんが、プロデューサーは石原裕次郎自身、これは石原プロモーション製作映画です。
舛田監督の演出に風格があって、役者の「表情管理」が完璧なんですね。すべての場面が絵のように美しくて、この時期の日本映画の立派さを感じさせてくれる。
中村玉緒の溌剌たる魅力とか、松原智恵子の理想的なお姫様役とか、いちいち感心させられる。
最後は、石原裕次郎と近衛十四郎の一騎打ちですよ。こんな場面が撮られているなんて知りませんでした。
知っている人は知ってる映画なんだろうけど、もっと有名であっても不思議ではないのに、と思いました。
朝6時からこんな立派な映画を見せられても、消化できないよ、と思いました。
調べると、監督の枡田利雄は、95歳でまだ健在なんですね。それも知りませんでした。
いやー、すごいものを見た、と思っていると、続けて同じ「枡田利雄×石原裕次郎」の映画、「影狩り」が始まりました。
影狩り
『ゴルゴ13』のさいとうたかを原作の同名劇画を石原裕次郎主演で映画化した時代劇アクション!財政難の江戸幕府が弱小藩の取り潰しのために放った隠密“影”。かつてその犠牲となった3人の刺客が“影狩り”となって幕府の陰謀に立ち向かっていく。
監督:舛田利雄 原作:さいとうたかを 出演:石原裕次郎 浅丘ルリ子 内田良平 成田三樹夫 丹波哲郎
1972年・石原プロモーション=東宝・92分・カラー・ワイド放送
これは1972年の映画で、当然カラーなんだけど、なんというか、「城取り」の立派さがなくて、画面が汚いんですね。音楽もダサい。
演出はそれなりに見せるのですが、人物に風格がなくて、ギラギラした感じになり、セクハラみたいな場面もある。
おっぱい見せもあります。
いやー、わずか7年で、日本映画って堕落したんですね。
というか、日本が堕落したのか。
60年代後半に何があったんだ、という感じ。なんかひどい文化破壊があったのか、と思います。
詳しくは知らないのですが、大きな要素は、石原プロモーションの転落でしょう。
1963年に発足した石原プロモーションは、「太平洋ひとりぼっち」(1963)とか、「黒部の太陽」(1968)とか、60年代に名作をつくります。
「城取り」も、その全盛期の作品なわけです。そこには、大手映画会社では作れないものを作る、という理想がありました。
しかし、1970年代になって興行的失敗が重なり、また映画不況もあって、石原プロモーションの経営が傾く。
そこから、時代に迎合した映画や、「太陽にほえろ!」みたいなテレビドラマの制作で生き延びるようになります。
「影狩り」は、まさにそういう時代の映画ですね。
結集している制作陣や役者の才能は同じでも、1965年の「城取り」と、1972年の「影狩り」とでは、画面から伝わってくるものが全然違う。
これは、映画の面白さとはまた別で、「品格」とか「こころざし」の違いです。
全盛期の、高い理想で作られた映画を見たあとに、経営が苦しくなってからの映画を見せられると、「貧すれば鈍す」の実例を見せられているようで、つらいのですね。
で、「影狩り」でテンションが下がったあとに、また石原裕次郎の映画が続きます。
今日のNECOは裕次郎特集か、とこのあたりでようやく気づきました。
そのあと、石原伸晃氏のツイートを見て気づきました。きのうは、石原裕次郎の命日(37回忌)だったんですね。
ともかく、「影狩り」の次に流れたのは、1973年の「反逆の報酬」でした。
反逆の報酬
石原裕次郎、渡哲也共演!欲と復讐にかられた二人の男が、身ひとつで巨大な麻薬組織に挑み、絶滅させるまでを描いたアクション超大作!村木駿は元新聞記者で今では世界を股にかけての恐喝専門のカメラマン。村木はベトナムの戦場でジョーが戦死する時に鍵とペンダントを預かる。ジョーの遺言通り東京のマンションを訪れると虚無感を漂わせた美貌の女・秋子がいた。村木と秋子はお互いの秘密を明かせないまま別れるが、村木はその帰り沖田という男に尾行されていた。沖田は数年前に組織のボスに裏切られ、死んだことになっている男だった…。
監督:沢田幸弘 脚本:永原秀一 長田紀生 出演:石原裕次郎 渡哲也 鰐淵晴子 夏純子 小池朝雄 成田三樹夫 高峰三枝子
1973年・石原プロモーション=東宝・89分・カラー・ワイド放送
もう、映画が汚い!
なんだこの下手なアメリカ映画の模倣は。
いま見せられても、ただの時代遅れなダサい映画でしかないですね。
見る気がしなくて、これは途中で離脱しました。
日本映画は、「城取り」の立派さをどこに置き忘れてきたのか、という感じです。
私が同時代に知っているのは、「太陽にほえろ」以降、1970年代以降の石原裕次郎です。
私は、「太陽にほえろ」も石原裕次郎も嫌いでした。なんでみんなそんなに褒めるんだろうと思っていました。
いまになってみると、石原裕次郎は1960年代には偉大だった。少なくとも映画人、製作者として。それを知ると、石原が人々にあれほど評価されていたのもわかります。
しかし、1970年代以降の、理想が崩れたあとの、ふやけた肉体で業界権力をふるうだけの「石原軍団」を見ていれば、尊敬の念がわかなくても仕方ない、と思います。
映画プロダクションというのは、難しいものですね。
いま宮崎駿の「君たちはどう生きるか」が話題ですけど、岡田斗司夫氏によれば、ジブリの経営がよかったのは2004年の「ハウルの動く城」くらいまでで、ここ10年は経営が苦しかったという。
「君たちはどう生きるか」が一切の事前宣伝をしなかったのも、単にカネがなかったからと言う人もいますね。
「君たちはどう生きるか」は見ていないので出来はわかりませんが、「貧すれば」になっていないことを祈ります。評価は二分されているようですけどね。
そういえば、北野武の「首」の話を誰もしなくなった。
オフィス北野も、よかった時期は短かったのではないでしょうか。(かつてのオフィス北野はすでになく、「首」もそのプロダクションではないですが)
ジブリにせよ、北野にせよ、もっと時間がたって、プロダクションの作品を通時的に見る機会があれば、「ここからダメになった」とか、「質の変化」がわかりやすくなるでしょう。
今日18日のNECOでも、朝8時15分から「枡田利雄×石原裕次郎」の「影狩り ほえろ大砲」があります。
影狩り ほえろ大砲
幕府に内密に大砲を作った某藩に対し、影一味はそれを奪おうと暗躍を始めた。そこで影狩り3人衆が招かれ、大砲をめぐって大攻防戦が始まる。『影狩り』シリーズ第2弾!
監督:舛田利雄 原作:さいとうたかを 出演:石原裕次郎 内田良平 成田三樹夫 丹波哲郎 夏純子 青木義朗 カルーセル麻紀
1972年・石原プロモーション=東宝・92分・カラー・ワイド放送
「ほえろ」が、「太陽にほえろ」にかこつけたものかどうかは、わかりませんけどね。
見るべきかどうか、迷うところです。
<参考>