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酔い止めのこと。

 今朝、ドラッグストアでコーヒーを買った時に、「酔い止めの薬はありませんか?」と聞いている女性がいた。大きなスーツケースを転がしているので、これから旅行なのだろうか。
店員さんも「いつも飲んでいるものはありますか?」と慣れた対応をしている。
 心の中で「楽しい旅行になりますように……大きなチェック柄のスーツケース、おしゃれです……」と呟きつつ、コーヒーと素焼きのアーモンドを買って店を出た。

 わたしは、あまり乗り物に酔わない。
 だから酔い止めを買ったこともない。
 一生酔い止めを飲むことは無いのだろう。
 必要のないことはしない、ただそれだけのことなのにどうしてこんなに寂しいんだ。

 乗り物酔いをするわたしがいたら、どんな風に生きていただろう。たとえばバスに乗る時も、席の位置を気にしていただろうか。そもそもバスを選ばないのだろうか。
 もしかしたら、酔ったわたしを介抱してくれるようなやさしい人と出会うことがあっただろうか。その人はきっと、やさしい人にふさわしいやさしい手で背中をさすってくれるだろう。

 今、この「わたし」が生きていくこれからの道では、おそらくすべて起こらない。
 そう考えると、急に背中が冷たくなったような気がした。

 わたしたちは何も失っていないのに喪失を感じることができる。
 何も失っていないのに。
 何も失っていないのに。
 ふしぎだけど、できることには意味があるんだと思う。根拠の無い喪失感を手懐けながら生きていく方法として、必要のないことをすることが必要なんだろうか。

今度の遠出の時に、酔い止め買ってみようかな。

酔い止めは過去のわたしに飲ませてね その先ちょっと揺れるみたいよ/かきもち もちり

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