~DX~シリコンバレーの一流投資家が教える世界標準のテクノロジー教養 山本康正(著)を読んで④
前回の記事では、フィンテック、ロボティクスについて述べましたが、この記事では第六章から第七章について触れて、個人的にコメントをしたいと思います。※前回の記事は以下のとおりです。
1 第六章 DX デジタル化の本質
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。デジタルシフトも同様の意味である。2004年にスウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマンが提唱したとされる。 ウィキペディアより
DX(デジタルトランスフォーメーション)の中心的なテクノロジーとして、SaaS、リテールテック、ロボティクスについて、これまで見てきました。
本章では日本企業において、なぜDXが進まないのかといった根本的な問題をスタンフォード大学アジア太平洋研究所で情報産業や政治経済を研究している櫛田健児氏に伺っています。
DXの本質とは
DXによって組織をどう変えるかが本質だと櫛田氏は述べています。
デジタルツールを使って「組織を根本的に変える」のか、「既存の組織をデジタルツールの導入で改善する」のか、という選択肢がある中で、いずれにしても「両利きの経営」が重要だとしています。
中でも、「ハサミを持ったカニ」を例にした概念の説明はわかりやすかったのでご紹介します。
「大きなハサミは今の主力事業で、最も収益を上げている事業です。しかし、いずれ業界破壊が起きれば、大きなハサミが切り落とされてしまいます。たとえば自動車産業で人々の求める商品がガソリン車からEVになれば、クルマ自体の設計思想から様々な部品まで、あらゆるものが一気に淘汰されることになります。大きなハサミが切り離されると小さなハサミしか残りません。それでは会社として長持ちしません。だから「両利きの経営」で、主力事業である大きなハサミがまだ存在する間に、それをさらに磨く一方で、小さなハサミのほうも大きく育てなければならないのです。」 「シリコンバレーの一流投資家が教える世界標準のテクノロジー教養 山本 康正(著)」より
主力事業で成功している企業であっても、業界破壊のインパクトに備えて新規事業を育てておくという上記の考え方は、非常に納得できる概念だと感じました。
中でも、「両利きの経営」のためには、KPI(重要業績評価指標)をしっかりと設定して、現在の主力事業(大きなハサミ)と将来の主力事業(小さなハサミ)の評価を分けて考えることが重要だとされています。
DXの完成形
DXの究極の姿について、櫛田氏は以下のように述べています。
「組織として、お客さんの困りごと(ペインポイント)に寄り添って、様々な解決策をたくさんの人が出す。そして素早い仮説と検証を繰り返せることが、DXの究極の姿なのです。」 「シリコンバレーの一流投資家が教える世界標準のテクノロジー教養 山本 康正(著)」より
「DXの究極の姿」にデジタルやテクノロジー、データといった表現が出てこないことは少々驚きました。
しかし、「DX」や「デジタル化」はあくまでも手段であり、「課題の解決こそが目的」という原則から言えば当たり前のことなのかもしれません。「DX」や「デジタル化」といったトレンドワードに踊らされずに、課題とその解決に向き合うことが必要でしょう。
2 第七章 DXの成功例 世界で戦う日本企業
本章では実際にDXに成功した日本企業として、建設機械・鉱山機械メーカーのコマツがご紹介されています。具体的なイメージを持ってもらうことを目的として、コマツのCTO室Program Directorである冨樫良一氏と対談しています。
なぜコマツはDXのトップランナーになれたのか
コマツがDXのトップランナーになれた理由を一言で申し上げると「DXができる社風」をベースとして、「見える化と最適化」を徹底したことによります。
「DXができる社風」とは
コマツではここ何代か六年ごとに社長が交代していますが、いくら交代してもトップが率先垂範するという経営方針はまったくブレません。トップがこれからはデジタルトランスフォーメーションをどんどん取り入れていかないと土木業界・建設業界は成り立たなくなると考えて、率先して推進をしています。 「シリコンバレーの一流投資家が教える世界標準のテクノロジー教養 山本 康正(著)」より
と冨樫氏は話します。
一方で、トップが率先垂範しても、現場が動かない会社が多くあることから、トップがリソースを用意して、そのリソースをもとに素早く行動に移すことができる優秀な人材を持っていることが重要とも話します。
やはり、トップと現場は車の両輪として、双方が役割を果たすことが重要と言えるでしょう
テクノロジーを担う人材の適正とは
では、優秀な人材とはどのような人材でしょうか。冨樫氏によると、テクノロジーを担う人材として適正があるのは以下の人だといいます。
①世界中の上下左右に網の目のような人脈ネットワークを形成できるような積極的で前向きに物事を考えられる人 ②飽くなき探求心を持っていること ③趣味的なものでもいいのでここだけは負けない分野を一つ持っていること。社内でこれについて聞くならこの人だといわれるものがある人。 「シリコンバレーの一流投資家が教える世界標準のテクノロジー教養 山本 康正(著)」より。
組織においては、個性をもった人材が共に課題に取り組むことで、革新的なアイデアが生まれるものです。逆に個人として考えると、特定の分野において強みをもっていることは、組織に属していても非常に大きなアドバンテージになるはずです。
第八章以降の内容については、改めて書きたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。