「ぱんぞう屋」で遊んでから、中学生で漢検2級に受かるまで
ちいさいころから、パソコン三昧。
ゲームをとおして、指先でことばを紡ぐことを学んだんだ。
ぱんぞう屋がやりたくて、パソコンに触れる
ちいさなイルカが映った液晶画面。
いとこがパソコンに向かって、楽しそうなゲームをやってる。
「それなに?」
わたしはいとこに聞いてみる。
「これはね、パンゾウヤ」
「パンゾウヤ?」
「やってみる?」
いとこにパソコンのいすに座らせてもらう。
画面には、たくさんのゲームが映っていた。
宇宙服を着たパンダのキャラクターが、いろんなゲームに挑戦している。
これ、面白いな。
わたしはすぐ引きこまれた。
「お父さん、パンゾウヤやりたい」
家に帰ったわたしは、お父さんにパンゾウヤのはじめかたを教えてもらった。
そこで画面を見て分かった。パンゾウヤは、「ぱんぞう屋」。
「ぱんぞう屋」は、たくさんのミニゲームが集まったWebサイトだ。
宇宙警察のパンダのぱんぞうをはじめとして、さまざまなキャラクターとゲームを楽しむことができる。
ぱんぞう屋のゲームが楽しくて、わたしははじめてパソコンを触るようになった。
特に面白かったのは、UFOキャッチャー。
耳が2つついた、丸くて1頭身のスライムみたいな「ぷにぷに」というオレンジ色の生き物。
この「ぷにぷに」が大小さまざまなやつがいるので、UFOキャッチャーで取る。
UFOキャッチャーに挟まれたぷにぷには、むにゅっと形を変える。
うまく取れないと、ぷにぷにがボトンと落ちる。
あとは、ぱんぞうたちの絵が描かれた麻雀牌のペアを揃えて消すゲームも好きだった。
麻雀牌は、タワー状に積み上げられている。
上からしか麻雀牌が取れず、下に埋もれている麻雀牌を引っこ抜くことはできない。
順番を考えて麻雀牌を揃えないと、ゲームがクリアできない。
山の牌をすべて消せるよう、よく考える。
それが楽しくて夢中になった。
学校や習い事から帰るとすぐ、ぱんぞう屋をやる日々だった。
特にぷにぷにが大好きで、学校の図工でぷにぷにのUFOキャッチャーの絵を描いたりもした。
(ちなみに、ぱんぞう屋はいまでも現役です!)
ハンゲームでチャットするマセガキ
父が、あるゲームサイトを教えてくれた。
それが、「ハンゲーム」。
これもまた、いろんなミニゲームが集まるゲームサイトだ。
ぱんぞう屋と違うのは、ネットを通して人間と対戦するところ。
特に、「すごろく」がお気に入りだった。
ハンゲームのすごろくは、普通のすごろくとはちょっと違う。
~以下、特に読まなくてもいいすごろくのルール説明~
四隅と中央に木の株があって、「スタート地点の株から再びスタート地点の株へと戻ってくれば」ゴール。
これ、「四隅の株を一周すればゴール」ではないのがミソ。
普通に進めれば、四角形の辺を一周することになる。
ところがこのすごろくは、木の株にぴったり止まれば、そこからななめの対角線に進んでショートカットができる。
このすごろくには、変わった点があと3つある。
①コマを複数盤上に出すことができる
プレイヤーはコマを4つ持っている。
4つすべてのコマをさきにゴールさせたプレイヤーが勝ち。
このコマは、盤上に複数出すことができる。
サイコロの出目については、どのコマに進ませるかプレイヤーが選ぶことができる。
②サイコロの出目
サイコロの出目にも特徴がある。
4や5の目が出れば、追加でもう一度サイコロを振ることができる。
2回以上サイコロを振った場合、どちらの出目からコマを進めるかはプレイヤーが選べる。
(例:出目が5→1の場合、1→5でも5→1でも、どちらの順でもコマを進められる)サイコロが台から落っこちれば、0。
マイナス1がある
この①と②の特徴を合わせれば、こんな作戦が立てられる。
スタート地点から5マス進むと次の木の株に止まることができ、ななめにショートカットできるので、5が出たときは新しいコマを出す
3マス進んだところであえてそのコマを進めず、2が出たときに進めて木の株に止まる→ななめにショートカット
1が出たらそのコマはスタート地点から1マスのところに止めておく。
4が出た場合は木の株まで進めてショートカット
マイナス1が出たらマイナス1してゴール
この戦略性がもう面白いんだ。
③ほかのプレイヤーのコマをこ◯せる
このすごろくが面白い最大の点は、
「ほかのプレイヤーのコマがいるマスに自分のコマを止めれば、ほかのプレイヤーのコマをこ◯せる」
ところだ。
こ◯されたコマは、振り出しに戻る。
ほかのプレイヤーのコマをこ◯して邪魔をするのも楽しい。ニヒヒ。
ちなみに、自分のコマがいるマスに自分のコマを止めると、なんとコマが合体する。
合体したコマは、複数個同時に1つのコマとして進めることができる。
合体したコマをゴールさせたときの喜びはひとしおだ。
合体したコマをこ〇されたときの絶望感もひとしおだ。
~すごろくのルール説明終わり~
ハンゲームのすごろくは、いままでわたしがプレイしてきたゲームのなかでも数少ない神ゲーだ。
よく兄弟にせがんで、一緒にすごろくをプレイしていた。
いまはもうあのすごろくをプレイできないのが悔やまれる。
ほかにも大富豪や七ならべもやった。
七ならべは弱すぎてぜんぜん勝てなかった。
パチンコもやったっけ。
忍者の女の子とウリ坊のキャラクターがかわいくて、当たりが来るのをいまかいまかと待っていた。
ハンゲームにはチャットがある。
部屋があって、そこに入ったひとたちがチャットでおしゃべりをする。
小学2年生のわたしは、そこで楽しく文字を打ちこんでいた。
「何歳?」
「8歳です」
「えーすごいね! 8歳でチャットやってるの!」
それがお決まりの会話だった。
でも、小学2年生がずっと年上のひとに混ざっているのだ。
当然、はなしについていけなくなる。
そんなときは、こう書きこみをする。
「・・・」
かまってほしくて年上のひと相手に沈黙をアピールし、気を遣わせる。
とんでもないクソガキである。
ところで、チャットだから当然タイピングをすることになる。
そこで、父に教えてもらって少しずつタイピングを覚えていった。
幸い、わたしは英語を習っていた。
だから、ローマ字を覚えるのはそう難しくなかった。
(でも、TUで「つ」になるのは納得できない。
「とぅ」だろ。
TSUで「つ」になるのはわかるけどさ。)
兄の同級生のお姉さんたちといっしょに、ハンゲームでハムスターを育てるゲームをしていた。
そのとき、お姉さんたちがこう書きこんだ。
「可愛い」
なにこれ?
「お兄ちゃん、この字なに?」
「かわいい」
えーマジで。「かわいい」って、漢字あるん。
愛することが可で、可愛いって書くんだ。
うわー、わたしめっちゃかしこくなったじゃん。
リネージュⅡで、広い異世界を旅した
父が、また新しいゲームを布教してきた。
それが、「リネージュⅡ」。
剣士や魔法使いなどの職業になって、モンスターを狩る。
経験値とお金を稼いでレベルを上げ、新しい技を覚えたり、強い装備を買ったりする。
この世界には、プレイヤーがたくさんいて、プレイヤー同士で交流ができる。
最初は、うさぎのようなモンスターを狩ってレベルを上げていた。
しかし、少し強くなると、リネージュⅡの恐ろしさがわかるようになる。
うさぎを狩っていたころは、ぼーっとしているうさぎを殴るだけでよかった。
ところがだ。
オオカミを狩るようになって、異変が起きた。
こっちがなにもしていないのに、オオカミに近づくとオオカミが攻撃してくるのだ。
こっちが逃げても、いつまでも追いかけてくる。
わたしは為す術もなく死んでしまった。
それからは、不用意にモンスターに攻撃されないよう、細心の注意を払った。
うっかりしくじってしまうと、自分のキャパを超える数のモンスターから攻撃を受ける。
そうすると、モンスターが襲ってこない街まで逃げるしかない。
モンスターがたくさんいるところを通り抜けて逃げるので、ほかのモンスターからもつぎつぎと追われる。
そうして、モンスターの大群に追いかけられるようになる。
ヤバい!
もうダメかと思ったそのとき、モンスターがバタバタと死んだ。
強いプレイヤーが、魔法でモンスターを一撃で倒して助けてくれたのだ。
た、助かった~!
そのプレイヤーは、ご丁寧に回復魔法と、強くなる魔法をかけてくれた。
おお、あなたが天使だったのか、もうなんとお礼を言えばよいか……!
突然の出来事にあっけにとられ、必死でお礼の言葉を考えてまごついていると、手際のよいそのプレイヤーは会釈をして去っていった。
ゲームをプレイしていたときのことだ。
突然、死んだ。
いったいなにが起こったんだ。
プレイヤーキル。
ほかのプレイヤーに殺されたのだ。
プレイヤーがプレイヤーを殺すことができる。
リネージュⅡ、なんて恐ろしいゲームなんだ……!
たちの悪い殺人鬼は、こちらに気づかれないように弓で遠くから攻撃してくる。
当然、そんなならず者を野放しにしておくわけにはいかない。
だから、プレイヤーを殺したプレイヤーは、キャラクターのうえに表示される名前が赤くなる。
つまり、赤い名前を見たら逃げなければならない。
あるときのことだった。
赤い名前のプレイヤーと鉢合わせた。
そのプレイヤーはこっちに向かってくる。
ヤバい。ゲームを終了しないと殺される。
心臓が高鳴る。早く、早くゲーム終了ボタンを押すんだ!
間一髪、わたしはゲームを終了させることができた。
あ、危なかった……。
わたしはへたりこんだ。
ひとりでちまちまモンスターを倒していても、そんなにたくさん経験値を稼ぐことができない。
そこで、ほかのプレイヤーと協力してチームを組む。
職業によってできることが違うので、役割分担して効率的にたくさんの敵を倒すことができる。
チームの募集をするために、チャットを打つ。
メンバーが集まったら、
「よろしくお願いします!」とあいさつする。
チャットで作戦を相談したりする。
ときにはちょっとした雑談もする。
チームを抜けるときは、
「抜けます、ありがとうございました!」
とあいさつをして去る。
そうしてわたしは、たくさんチャットを打つ経験をした。
タイピングの達人になり、中学生で漢検2級
こうして、ぱんぞう屋からはじまり、ハンゲームやリネージュⅡをとおして、わたしはパソコンとタイピングに慣れていった。
学年が上がっていくと、パソコンの授業がはじまった。
最初はタイピングのゲームをやった。
チャットを書いていたとはいえ、ちゃんとしたタイピングの練習は最初はおぼつかなかった。
しかし要領をつかむと、わたしはすぐタイピングが上手になった。
たったひとり。
クラスでわたしだけが、タイピングのゲームのラスボスを倒すことができる。
これは、いままで数々のゲームをとおしてチャットを書いてきたおかげ。
ところで、パソコンの文字入力では変換が使える。
この変換が、楽しくなってきた。
変換を使えば、まだ習っていない漢字でも一瞬で書くことができる。
フロッピーディスクが現役の時代。
授業で作文をパソコンで書くことになったわたしは、どれだけたくさん漢字を書けるかにあたまを使っていた。
漢字使えば文章がシュッとするし。
早く作文を書き終えられたので、ひまだった。
でも、フロッピーディスクをかしゃかしゃしているわけにもいかない。
あまり褒められたことではないが、先生に頼まれて、タイピングが遅い子の作文を途中から代わりに書いてあげたりしていた。
パソコンを通して、わたしはたくさんのことばに触れることができた。
その結果、中学生で漢検2級に挑戦し、見事合格した。
もしパソコンがなかったら。
パソコンでゲームをやっていなかったら。
こういった結果にはつながっていなかったかもしれない。
デジタルがもつ学びのちからはすさまじい
SNSで、こんなはなしが回ってきた。
「お子さんがインターネットを使ううえで気をつけることは?って聞かれるけど、いまは親御さんのほうが知識がない」
わたしが子どものころと時代は変わった。
スマホ、タブレット、AI、プログラミング学習。
マインクラフトやAPEX、Among Usなど、パソコンでできる魅力的なゲームも増えた。
スマホのアプリを使って、いろんなことができるようになった。
たとえば暗記カードは、忘れたころに問題を出してくれる機能があるため、アプリを使うメリットがでかすぎる。
わたしが中学生のときはDSで暗記カード作ってたんだよ。カメラ機能で教科書の写真とって、覚えたいところを黒塗りしてさ。
Youtubeもかなり発展して、あらゆるコンテンツを無料で見られるようになった。
あれひとつで、なんでも学べる。
面白いから、新しいことに興味をもつとっかかりにもなる。
デジタルが子どもに与える推進力は、すさまじい。
子どもは興味というエンジンで、新しいものをどんどん吸収して、どこまでも遠くに行ける。
デジタルからきっと、たくさんの才能が生まれていく。
そのいしずえをきずいてくれた、すべてのクリエイターに感謝を。
こちらもおすすめ
この記事を書いたのはこんな人
ZINE「Domanda」発売中です
ZINE「Domanda」では,ADHDと双極性障害と診断され,様々な挫折と試行錯誤を繰り返してきたわたしが,自身の苦労の中で感じたことのエッセイや,生活の中で編み出したハウツーを綴っています。ご興味のあるかたは,こちらの商品ページをご覧いただければと思います。