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豚のスティンコ(骨付きスネ肉)のビール煮でトラウマ解消

ココット肉料理第二弾。

一見とてもゴージャスな肉料理ですが作るのは、いたって簡単です。

長時間(3時間半)煮込みますが、オーブンで焼くのではなく極弱火で煮込むのでそれほど光熱費もかかりません。

この投稿の中で骨付きスネ肉を時々「スティンコ」とイタリア語で呼んでいるのは、物のイメージと名称の響きがピッタリ一致しているように思えるのです。日本語よりピンとくるという理由からです。(あくまで私観)

***

今回のビール煮はイタリアの料理サイトを参考に作ってみました。

我流に変更したのは「肉のブイヨン」と「バター」を省略した事とソースにする玉ねぎの他に、

一人1個分小さな玉ねぎを丸々、一緒に煮込んで付け合わせ野菜としています。

「肉のブイヨン」の省略は「骨付きの肉を長時間煮込むのだから旨みは肉から出るはず。」

「バター」の省略は「骨付きスネ肉に薄く巻き付いた脂肪層から滲み出す油脂だけで十分なはず。」と考えたこと。

上記のリンクのレシピ通り作りたい方はビール1リットルと一緒に「肉のブイヨン」400ccを加え、最後に玉ねぎをブレンダーにかける際にバターを40g加えてください。

昔ドイツでスティンコを食べそびれ、以来トラウマになってしまった話はレシピの後に書きます。


材料写真

<材料> 4人分 (2人分 x 2回分)

・豚の骨付きスネ肉  2本(合計1470g 骨の重さを引き、肉正味 約1100gでした。)

・ソース用玉ねぎ 300g (約3個)

・付け合わせ用玉ねぎ 小4個 *省略OK

・ビール 1リットル

・ローリエ 3枚

・ローズマリー 一枝

・塩、胡椒 適量

・オリーブオイル 少々


<作り方>

1・豚の骨付きスネ肉は買ったらすぐに塩胡椒をしておきます。

2・ソース用玉ねぎは縦にスライスし、付け合わせ用玉ねぎは皮だけ剥きます。

ソース用
煮込み用

3・煮込み用の深めの鍋(写真ではココットを使用)に薄くオリーブオイルを敷き2の玉ねぎとローリエ、ローズマリーを入れ、中火で玉ねぎがしんなりするまで炒め、塩で味を整えます。

4・玉ねぎをしんなりするまで炒める間にやはり薄くオリーブオイルを敷いたフライパンを熱し、1の豚の骨付きスネ肉の全面に焼き目をつけます。

5・4を3の鍋に移し、ビールを2/3流し込み、沸騰するまで強火にします。

6・スネ肉の全面に焼き目をつけたフライパンに残りのビールを流し込み出た旨みを5の鍋に移します。

7・5が沸騰したら極弱火で3時間半煮込む、とオリジナルレシピには書いてあります。肉全体が液体に浸かっていない場合は途中裏返します。

極弱火:イタリアのガスコンロについている。
モカコーヒー用の小さなガスが必ず付いているのでこれでも十分。
日本のコンロの場合は極弱火で。
約2時間後
約3時間半後

2時間程度で火を一度止めて油脂が固まる位まで冷して、固まった油脂を取り除いてから残り時間加熱し直すと重た過ぎなくて良いでしょう。(写真は2日目のスネ肉1個分この処理をしました。

一晩放置して固まった油脂
固まった油脂を概ね取り除く

8・3時間半経ったら一度肉と付け合わせ用玉ねぎ、香草(ローリエ、ローズマリー)も取り出してブレンダーにかけソースにします。


ブレンダーにかける

9・香草は捨て、肉と付け合わせ用玉ねぎは8に戻し熱々を食卓に運びます。

1日目


2日目


*残った煮汁は、来週投稿予定のカヴール風ライスで使いますので冷蔵庫で保存して下さい。

*****

スティンコのトラウマ

今回この料理を作ってみて長年のトラウマが解消されたような良い気分です。

何故食べそびれ、トラウマになってしまったか、というお話をします。

美味しい物を作るのと食べるのは好きだけれどそれほど食に「執着」がある方ではなく「食べ物の恨みは怖い。」と言うのを実感した事もありません。

唯一、昔ドイツのケルンで食べそびれたスティンコ(豚の骨付きスネ肉)を除いては。

イタリアではレストランでスティンコというのは見かけない。

メルシェで売っているようなグリルで焼いただけの肉は硬くて美味しくない。

だから昔ケルンのレストランで食べ損ねたスティンコが忘れられなかったのです。

*****

1998年1月のこと。

ドイツ、ケルンの家具関連のトレードフェアに出かけた。

当時、ケルンの家具フェアは家具関連ではミラノサローネに次いで重要とされていた。

買い付けや市場調査ではなく新作発表だった。

イタリアのあまり大きくないけれど美意識の高いことで知られる家具ブランドから私のデザインした新製品がリリースされることになっていた。

当時私はまだ以前勤めていた事務所の仕事と掛け持ちでフリーランスとして新作数作目くらいの駆け出しデザイナーだった。

トレードフェア初日にクライアントのブースに挨拶に行く。

社長はデザイン好きで有名な実業家。その時のフェアでは私の新作だけでなく英国の著名建築家で今では「サー」の栄誉称号も授与されているノーマン・フォスターの家具もリリースしていたので、「今晩フォスター事務所のデザイン担当者と一緒に夕食に行きませんか。」とお誘いを頂いた。

日本と異なり、ランチならともかくクライアントと夕食を一緒するのは稀なイタリアで、それは個人のデザイナーとして初めての、(勤めていた有名事務所のプロジェクト責任者ではなく)クライアントからの夕食のお誘いで、なんだかやっと一人前のデザイナーになった気分で嬉しかった。

夜になり社長秘書の指示通り指定レストランに出向く。

ほぼ満席のいかにもドイツらしい良い感じの、大きなレストランだった。美味しそうな料理を肩の高さに持ったウエイターが忙しそうに歩き回っていた。

私たちのテーブルはフォスター事務所の二人と社長と社長秘書と5人だった。

シックに黒い服を着込んだフォスター事務所のデザイン担当の建築家二人は「担当者」と言っても私より年上でなかなかのナイスガイだったが、「君の新作のリリースなの?君の勤めている事務所のではなくて?」とちょっと怪訝な顔をしていた。日本人は若く見えるから「こんな小娘がサー・ノーマン・フォスターと同じ会社から作品リリース?!」と思ったのだろう。

イタリアのクライアントとの初めての夕食というだけでなく、ドイツ語のメニュー、イタリア語と英語の混ざる会話で私は少し緊張していた。

さて注文という段になり、何を注文していいのか全く分からず、社長のお勧め料理を注文。それなりに美味しかったのだが、、、食べ始めて少しした頃、ウエイターが「はじめ人間ギャートルズ」(古くて失礼。大昔NHKで放映していたアニメです。)の主人公ゴン少年がいつも食べていたマンモスの骨付き肉に似たものを持って私たちのテーブルの脇を通る。軽く1kgはありそうなツヤツヤで湯気の立つ大きな骨付き肉に目が釘付けになる。

ゴンの骨付きマンモス肉

あれは何かと社長秘書に尋ねると、豚のスティンコだとイタリア語で教えてくれる。

あれを頼めばよかったと後悔するがもう遅い。

ケルンには明日もう一晩滞在するので明日の晩レストランに行ったらあれを注文しようと決める。

翌日は見本市会場外の様々な展示を見た後、夕方ホテルの近くのいい感じのレストランに一人で入る。いつも出張中一人で入るレストランよりは1、2ランク上のレストランだ。

伊語ー独語のミニ辞書で豚のスティンコを調べ注文する準備までしていったが、その必要もなかった。丁度ウエイトレスが注文を取りに来た時、昨日と同じようなツヤツヤで湯気の立つあの骨付き肉を持ってウエイターが脇を通ったからだ。

「あれを注文したい。」とウエイトレスに言うと、

「ダメです。あれは貴方には大き過ぎる。絶対食べきれないからダメ。」とキッパリと言う。

一体なんの権利があって私の注文を邪魔するのだ?!

「私は日本人だがイタリアに住んでいてイタリア人も驚くくらいの大食だから絶対全部食べる自信があるから注文させて。」と食い下がる。事実、若い頃はかなりの大食だった。

ところが頭の硬いウエイトレスはゴムの壁。

あの手この手で説得を努力したが結局念願のスティンコは注文できなかった。

レストランで注文を拒否されたのは、しかも私には食べきれないというウエイトレスの勝手な思い込みで注文できなかったのは長い人生、後にも先にもあの時だけだった。

今なら店長に掛け合ってでも注文しただろう。

カンボジアのプノンペンで間違えて「かえると大蟻」の料理を注文した時はウエイターに「本当に?」「本当に。」「本当に?」「本当に。」「本当に?」「本当に。」と何度も念を押されたが注文して、出てきた皿を見て慄いたが。。。

それ以来、ドイツ滞在中に豚の骨付きすね肉をメニューに見つけると注文せずにはいられない。でも何度食べてもあの時食べそびれた骨付きすね肉ほどは美味しくないように思えるのだった。

食べてないのだから、本当の味は知らないのに。

今回この方法で3時間半煮込んだスティンコはとても柔らかくデリケートに仕上がり、結構満足出来て、やっとトラウマが取り払われそうです。

ビールの苦味なのか、アク取りを怠ったからか、ソースに若干苦味が残るので、ビールではなくワインとブイヨン半々で煮込んでも良いかもしれません。

量的には、もちろん今は1kgのお肉など食べられません。この切り身1個で750g、内、骨の重さ約200gなので肉は正味550g。その半分でお腹いっぱいです。

でも30年前なら絶対全部食べられたはず。

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