これからのカスタマーサクセス

こんにちは、かじ(@kajicrypto)です。LayerXのプロダクトマネージャーとしてのnoteを書くはずが気付いたらカスタマーサクセスのことを考えていました。PdM記事は下書きにあるので追って進めます。

ここ最近、"カスタマーサクセスはセールス化していく"という話があがっています。本noteではこの話を絡めながらカスタマーサクセスが向かいうる方向性について考えを書いていきます。

なお、本noteの内容はLayerXのCSと関連はありません。休日に個人のポエムとしてふわっと考えていることを言語化してみた程度のものです。


カスタマーサクセスのセールス化とは

ここについては既にいろいろと記事があるのでご紹介します。

記事紹介(時系列)

👇ALL STAR SAAS FUNDブログの世界最大級のCSカンファレンスPulse2023レポート。CSのミッションは顧客の育成から成果創出に変化していると総括されています。グローバルトレンドについていかねば、と背筋が伸びたことを覚えています。

👇山田ひさのりさんのnote。顧客の育成部分はBPO化し、CSは成果創出のために顧客のパートナーとしてのセールスに近づいていくという話。

日本でも多くのSaaSがローンチから数年経過しARRを積み上げてきました。その過程で顧客の育成活動として1番のウェイトを占めるオンボーディングは型化が進み、今後はデジタルを活用した効率化のみならずアウトソースが進んでいく。それに伴い、残るCS人材はより顧客の成果創出ならびに事業数値に資するためにセールス化していくでしょう。

👇SaaStr Founderの2023年末記事。スタートアップ冬時代の資本効率性重視の流れのなかで多くのカスタマーサクセスはセールスチームの一部になったと。記事タイトルが「The Beginning of The End of Customer Success」ですよ、なんて残酷なタイトルをつけるもんだと思いながら読みました。

👇Gainsight CEOとSaaStr CEOによる2024年のCS予測。AIがCSの主流となり、人間によるCSの役割はさらにセールスに拡大すると話されています。一方、顧客への価値提供は大切、導入に時間がかかるサービスには人間によるタッチは必要、オンボーディングを削減してはいけないとも書いてはあります。

これは避けられないトレンドなのか?

カスタマーサクセスのセールス化と聞くと「ウッ」と感じるCSMの方もいると思います。この流れは避けられないのか、日本のおもてなし精神は評価されないのかと。

これは資本効率を重視して成長せよ、そうでなければSaaS企業として評価できないぞというマーケットからの要請によるものです。資本主義社会のなかで外部資本に頼ってビジネスを行うのであれば前提条件であるマーケットのルール変更には従うしかありません。

CSの生産性は今も1人あたりARRで語られることがありますが、1人あたり100万ドルと言わず200万ドルを目指せという話もあります。裏を返すとそこまでいかないのであればよりセールス化せよという話でもあるかもしれません。日本においては金額基準が違うかもしれませんが、それでも厳しい話です。

一方、これは結局資本効率の良い活動をできればその形態は問われないはずで、必ずしも全員がセールス化しないといけないわけではないと私は考えています。

セールス化ではなく専門分化ではないか

マーケットのトレンドとして顧客に寄り添うだけのCSは評価がされなくなり、より高度な活動が求められてくることはよく分かりました。一方、全員がセールス化し従来のカスタマーサクセス業務を放りだして良いという話ではないことも明確です。

私はこの流れを見ていて、要はCS活動は次の3つに専門分化されていく話だと考えました。

① デジタル&BPOを活用した超効率的な顧客タッチ
② 特定領域におけるオンボーディング期間のハイタッチ
③ Renewal/Up-Sell/Cross-Sell推進によるNRR向上

お気付きの通りこの3つの活動は多くのSaaS企業で既に行っているものですが、これをより研ぎ澄ませそれぞれが”資本効率が良い”という活動レベルまで引き上げる必要があるということなんだと思います。(カスタマーサポートについては本論から抜いています)

また、このトレンドと日本のSaaSにおけるカスタマーサクセス組織の成長に伴う課題がリンクし、専門分化がより進む1年になると考えています。

日本のSaaSにおいてはここ数年の事業成長に伴いCSが20人を超えるような組織も多く出てきています。人数が少ないうちは”契約後のすべて”を”カスタマーサクセス”という名称の組織でまるっと預かり、ゆるやかにチームは分けつつも結局パラレルで活動をしてきた組織が多いのではないでしょうか。

一方、契約後のすべてと言っても業務範囲がとても広く、すべてをできる人の採用はできないし、様々なスキルと業務とそれに対応する人が混ざった組織をマネジメントすることの難しさがあります。

CSはTHE MODELの後工程かつ経験者総人口が少ないため、特にスタートアップの現場では採用が遅れがちです。結果として人数が少ないうちはハイタッチオンボーディングで忙しかったり兼務兼務でなかなか理想追求をできません。現実的には人数が一定規模になったところでしっかり組織を分けていくことができるでしょう。

今年はそのタイミングと専門分化のトレンドが重なる企業が多いのではないかと思っています。CS部門内での兼務を含むゆるやかなチーム分けから、それぞれのミッションをそれぞれの組織でしっかり追う体制に移行するタイミングだと思います。

これはCS部門内でチームをより明確化するという話を超えて、カスタマーサクセスという総称された部門をなくしていく企業があっても良いのではないかと思っています。

専門分化の方向性

セールス化だけではなく何があるのか、上記の①〜③+αについて◯◯化という言葉で表現してみました。

最適解はサービスの特性やフェーズ、組織状態によって違うと思いますし、既にしっかり組み上げられている企業もあると思います。整理することで組織形態やキャリアを検討する材料になるかもしれません。なお、思いつきで書いているものであまり深く突っ込まないでください:pray:

カスタマーマーケティング&オペレーション化

業務内容

①デジタル&BPOを活用した超効率的な顧客タッチを担う方向性です。マーケティングという表現がしっくりこない方もいるかもしれませんが、要は1:1のハイタッチではなく1:nに働きかけることができる仕組みを作ることを表現しています。

また設定・利用状況をもとにした自動アクションの整備などもスコープに含まれ、MAツールないし日本でも最近広まりつつあるCS管理ツールの運用を行うはずです。このデータ基盤を整備したり自動化を推進する観点でオペレーションも含まれると思います。

型化された業務のBPOをハンドリングする点においてもオペレーション化がより進むでしょう。なお、このハンドリングは②の組織が持ってもよいかもしれません。

組織形態

組織名称はなんでもよいのですが、兼務による"片手間テックタッチ"ではなく、専門スキルの高いメンバーが少数精鋭で本格的に活動を推進するようになる方向性と思います。特にARPAが10-15万円程度までのSaaSないし顧客層においては急がれるべきものではないでしょうか。

チームは顧客解像度が高いCSM、コンテンツ作りが得意なカスタマーサポート、そして大切なデータアナリスト、ツール導入や自動化に強いメンバーなどで構成されると思います。また定期的にエンジニアリソースを融通してデータ基盤やツール連携等をより進化させることも必要になると思います。

この役割はこれまで顧客が一定数まで増えたらできてくる企業が多いと思いますが、意識的に初期フェーズからゆっくりとされど継続的に作り込んでいくものになるかもしれません。◯◯化する組織のなかで1番採用が難しいポジションでしょう。

資本効率という観点では1人あたり500社くらいを持っている状態を目指すことになるのでしょうか・・(ひえぇ)

プロフェッショナルサービス化

業務内容

② 特定領域におけるオンボーディング期間のハイタッチを担う方向性です。定型化してBPOできないエンタープライズ顧客向けオンボーディング、ARPAが30万円を超えるようなサービスのオンボーディング等は引き続きハイタッチが強く求められるものと思います。

一方、サービスの設定を促進するための無償オンボーディングではなく、業務フローの再構築や複数部門を巻き込むプロジェクトマネジメントを行い、顧客の成果創出に向けて伴走する有償のプロフェッショナルサービスを強めていく方向性と思います。

①でサービスについて自走できる環境は整えているんだ、無償ハイタッチはもう終わり、やるなら費用も頂いてしっかり成果にコミットする活動をさせてくださいというお気持ちでしょうか。

組織形態

下記の力を持った、わかりやすく言うとエンタープライズCSの集まりになるのではと思います。プロフェッショナルサービスを望む顧客はエンタープライズに限りませんが、求められる力はある程度共通と思います。

1. 対象領域の深いドメイン知識
2. 本質的な課題を特定する深掘り力
3. 目標を達成するための伝達能力(1:1のコミュニケーションに限らない)
4. ②③を適切なタイミングで可能とするプロジェクトマネジメント力

規模以外の切り口では、利用するために様々企画が必要なマーケティング系SaaS、ただ使うだけではアウトカムが出づらい採用系SaaS、医療や建設などDXが進みにくい現場に働きかける必要があるサービスなどで引き続き求められるのではないでしょうか。

採用においてはSIerやコンサル出身者などのネクストキャリアとしてアプローチできるものと思います。彼らにはなかなかSaaSのCSという仕事をアピールできていないのですが徐々に活躍の場が増えるとよいなと思います。

資本効率という観点ではプロフェッショナルサービスの売上がわかりやすい指標として出てくると思います。

カスタマーセールス化

業務内容については説明不要と思いますが、組織形態をどうするかは非常に難しい問題だと思います。

セールス組織のもとでNew SalesとRenewal/Expansion Salesを並列にして強いKPIマネジメントをする、Salesからアカウントマネージャーを立てて協働する、カスタマーセールスという別組織とする、カスタマーサクセス内に置きCSMがそのままスライドする、いろいろな形態があると思います。

いずれにせよ顧客満足を追求するのではなく、顧客が求める成果をプロダクトと商談を通じて提供するセールス活動の側面が強まっていきます。CSMの多くがここに属することになり、セールス未経験の方はセールス力をつけることが求められます。

プロダクトに資するCS化

①〜③で表現できず+αと書いたものです。
短期的には非効率だけど長期的に発展するプロダクトを作る1つの観点として、プロダクトに資するCSというものがあると考えています。

シングルプロダクトにおけるSaaSの展開というものは一定プラクティスが市場に溜まってきた一方、それだけでのARR積み上げの限界も見えてきています。大きな成長を続けるためには、エンタープライズ企業をしっかり攻めること、マルチプロダクト化をすることの2つが求められます。

前者は主にセールスの力が求められますが、後者はCSが介在する価値が大いにあります。プロダクトは常にお客様の課題を解くことでお金をいただけるものです。その課題に1番近くで日々触れることができるのはCSです。

契約中プロダクトの前後の業務フローを聞いていけば次の解くべき課題が見つかるかもしれない。お客様が自動化できないと思っていた単純作業でも、テクノロジーを知っている人間が聞いたら簡単に自動化できることに気付けるかもしれない。

新しいサービスは非効率なディープダイブから生まれるものだと思います。プロダクト志向が強いCSは①〜③のいずれでもなく、あえてこれまで通りの活動を継続し、次の成長の種を見つける役割を担っても良いかもしれません。ここでは足元の資本効率という言葉は関係させないようにする必要があります。

組織においてはこの動きは事業開発、PMM、PdMらが担うことが多く、現実的にはCS内でやるというより異動していくことが多いでしょう。形態はいろいろありつつも、現場解像度と顧客接点を活かして新しい価値を創り出すことができるカスタマーサクセスも素敵だなと思います。

お客様を主語に

カスタマーサクセスの活動形態の変化について書きました。組織形態も変わりゆくと思います。

一方、本noteはグローバルなトレンドや資本効率といったマクロな話から展開したもので、現場活動からできあがった話ではありません。考えることを諦めてはいけないけれど、世の中を知った風のポエムになってしまったと反省しています。

現場ではこんなことは放っておいて、目の前のお客様の幸せの状態をどう定義し、どうそこに到達する支援をできるか、向き合い続けながら1歩1歩進んでいきます。

効率化、デジタル化、生産性みたいな単語が現場で飛び交うようになると気付かぬうちに顧客価値の視点が抜け落ちていきます。これからもお客様を主語に活動をできる人間でありたいと書きながら思いました。

最後までお読みくださりありがとうございました!