『村上さんのところ』村上春樹 「僕の文章は村上春樹の著書に載っている」
このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。
『村上さんのところ』村上春樹
【村上春樹の作品を語る上でのポイント】
①「春樹」と呼ぶ
②最近の長編作品を批判する
③自分を主人公へ寄せる
の3点です。
①に関して、どの分野でも通の人は名称を省略して呼びます。文学でもしかり。「春樹」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。
②に関して、村上作品は初期は比較的短編が多く、いわゆるハルキストの中には、一定数短編至上主義者が存在します。そこに乗るとかっこいいです。
③作品に共通して、主人公は「聡明でお洒落で達観しててどこか憂鬱で、女にモテる」という特徴を持っています。その主人公に自分がどことなく似ていると認めさせることで、かっこいい人間であることと同義になります。
○以下会話
■村上春樹問答集
「暇つぶしになる本か。そうだな、そしたら村上春樹の『村上さんのところ』がオススメかな。この本は、村上春樹が3ヶ月半の期間限定で開設した公式サイト「村上さんのところ」に対して世界各国から寄せられた質問と、それへの村上春樹からの回答をまとめた本なんだ。
寄せられた質問・相談メールの数は、全部で3万7465通にものぼったらしいんだよ。そこから3716通に対して質問を返してウェブサイトに公開して、そこからまた473通を選んで書籍化してるんだ。
質問のジャンルは何でも良くて、恋愛や人間関係、仕事のこと、悩み、文学、音楽、社会問題、猫。老若男女世界各国の色んな種類の質問に対して、村上春樹がひとつひとつ丁寧に回答しているんだ。
■僕の文章が載っている
そして実は、僕の質問がこの473通に選ばれて載っているんだよ。最初この公式サイトが開設された時に「全ての質問に答えることはできませんが、全ての質問に村上春樹自身が目を通します。」と書かれていたんだ。
村上春樹が全ての質問を見てくれるということに興奮して、まずは「初めまして、にしきれおと申します。現在大学生で、、、」と400字くらいの自己紹介文を送ったんだ。そこから色んな質問を8通くらい送ったんだよ。
回答してくれたら嬉しいなとは思ってたけど、まず村上春樹が僕の文章を読んでくれるということに高まって、たくさん質問を送ったんだ。
そしたら数日後その内の一つに回答してくれて、公式サイトに載せてくれたんだよ。それだけでも嬉しかったけど、半年後に出た『村上さんのところ』にも僕の質問とその回答が載ったんだ。
本に自分の質問が載っているかは、実際に本を見るまでわからなかったから、発売初日に大学の最寄りの本屋に行って、店頭に平積みされたこの本を手にとって、ドキドキしながらめくったんだよ。数ページめくったら僕が送った質問が載っていて、その本を買うときに店員さんに「僕のが載ってるんですよ」って言ってしまうくらいに嬉しかったんだ。
本に載った僕の質問と、村上春樹の答えがこれ。
思いっきり「人生経験が少ないですね」って説教されてるよね。冒頭から「でもね、」って否定で始まってるよ。
だけど僕は村上春樹からのこの回答を気に入ってるんだ。世界で一番有名な小説家の一人で、毎年ノーベル文学賞の候補に名前が上がる作家が、「言葉で表してしまうと、いちばん大事な何かが失われてしまうということもあります。」と言ってるのがすごいよね。
「人には言葉を失ってしまう時があり、場所があります」と僕に対して書いてくれたことが、「言葉で表せない」気持ちになるよ。
ひとつ後悔してることは、名前を「2:14」にしてしまったことなんだ。たくさん質問を送っていたから、それぞれの質問は名前がバラバラの方が良いのかなって思って、その時の時間、深夜2時14分をそのまま名前にしてしまったんだよ。ここだけがすごい残念。
■自分のだってろくにわからないというのに。
僕が気に入ってる村上春樹からの回答は、「村上さんが将来お札の顔になるとしたら何円札がいいですか?」という質問に対する答え。
▶︎お札はあまり気が進まないな。切手の方がいいです。ストロベリー味の切手とかね。みんなになめられて、楽しそうだ。お札をなめる人っていないですよね。
小説家の夏目漱石がお札になっていたことから考えると、今から100年後村上春樹がお札になってるのは有り得なくもない話。そんな時に切手はまだあるのかな。
それと31歳の女性からの「旦那さんの性欲がありません。どうしたらやる気にさせられますか?」という質問に対する答え。
▶︎すみませんが、他のひとの性欲の事情まで僕にはわかりません。自分のだってろくにわからないというのに。申し訳ないけど、ご自分で考えて解決してください。
「自分のだってろくにわからないというのに。」が良い。
他には12歳の小学生からの「国語の授業がつまらないです」という質問に対する答え。
▶︎そうですか。僕も国語の授業ってあまり面白いとは思わなかったですね。とくに勉強しなくても成績はすごく良かったんですが(笑)。僕の小説はときどき過激な部分があります。でも悪いことを勧めたり、道徳的に間違ったことを教えていたりとか、そういうことはありませんので、「多少エッチなくらいいいよ」と思えば読んでもいいんじゃないかな。<後略>
村上春樹も(笑)って使うんだ、ってびっくりした。
あとはこれは村上春樹の回答抜きで質問が面白い。
074え、わたしが?
▷去年、「子供が生まれたからあげるよ」と彼女がいうので猫を譲り受けることになったのですが、渡されたのが親猫でした。
(*田**夫、男性、21歳、学生)
質問ではないね。ただの報告。面白い。
■短い文章にも村上春樹っぽさを感じる
この本のすごいところは、村上春樹が回答した200文字程度の短い回答に、村上春樹っぽさを感じとれるところなんだ。小説で書かれている、「やれやれ」とか「あるいはそうだったかもしれない」とか村上春樹節が出る言葉を使っていないにも関わらず、普通のことを書いているのにハルキ感が出ているんだよ。何でだろう。
そしてそのハルキ感がある回答文は、リズムが良くてスラスラと読めるんだ。質問者が書いた質問の文章と、村上春樹が書いた回答の文章では、やっぱり読みやすさに差があるんだ。
200文字程度の文章でその人らしさが出せるのは流石だよ。ファミレスで記名表に名前と人数を書くだけでも書道家だと分かるような感じ。
「まるで降っても降っても降り止まぬ大雪を、一人でシャベルを持って雪かきしているみたいでした」と本人が語るくらい、3万7465通もの質問を読むのは大変だったと想像できるけど、真摯に向き合ってるなって感心するくらい丁寧に答えられていて、村上さんの人柄が出てるなって思えるよ。
たくさん質問があるから、すぐには読みきれないとは思うけど、暇な時にパラパラとめくって気になったところを読むだけでも楽しめるよ。」
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