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「役者は一日にしてならず」林与一編

春日太一さんの著書「役者は一日にしてならず」の読者感想文を書いています。

林与一さんの演技、出演作を私はあまりしっかり拝見したことがなく、ただもちろん存じ上げてはいましたが、今回このインタビューを読んで、林与一さんのことだけでなく師匠の長谷川一夫さんのことも書かれていて、芸能の世界や、演技をするということについて、これほどまでに「お客様の観たいものを演る」という意識の強さや、そのための稽古や勉強にどれほど時間を費やしているのかということが顕になっていて、冒頭からとんでもないことになっています。

生まれた環境が関西歌舞伎のお家柄で、子供の頃から舞台は身近ではあったものの、初舞台は15歳。
そこで思いの外たくさんのお給料を頂いて、喜んで役者になったけれど、そこからの稽古漬けの日々は非常に
大変だった。
その後、二枚目大スターの長谷川一夫の弟子になり

「自分が人を使う身になった時に人の使い方が分かるから、使われなきゃダメだ。
『人が七時間寝るなら三時間にして、残りの四時間を勉強しろ』」

と、朝から晩まで長谷川一夫に付きっきりで見て学ぶ。

「お化粧の美しさ、形の美しさ、それから衣装の選び方。そういうものは多分に勉強させてもらいました。
『舞台では、役者がつらく思えるような格好が人さまには綺麗に見えるよ。』と。
浮世絵って綺麗ですけど、つらい格好をしています。
芸というのはお客さまが楽しむためにあるんだから、自分が楽しんでイイ気持ちになっちゃいけない。それじゃぁお客さまに通じない。」

…これは長谷川一夫から教えてもらった。
その後自分にも仕事が少し入るようになったけれど長谷川一夫の付き人もやりながらなので、長谷川一夫の付き人が終わってから自分の撮影入り。
更に、舟木一夫が俳優デビューするということで長谷川さんからの指示で舟木一夫さんの付き人もやれと言われて。時代劇初心者の舟木一夫さんに、適宜アドバイスもできるよう配備されたわけですが、長谷川さんから言われていたことのひとつに

『よほど間違っているところ以外は口を出すな。本人のキャラクターがあるから』

と。
この段落では、長谷川一夫さんの指示する言葉の素晴らしさに感動しました。これぞ、子育ての極意ではなかろうか?と私は思います。
子供が、わからないから教えてほしいと困った時にいつでもアドバイスができる位置に居ながら、子供が自分で考えてやっていることに対しては、よほど間違っているところ以外は口を出さないというのは、本当に大切な事なんじゃないでしょうか。
どうしても「知っている」身としては、もっとこうした方がいいと思うことは多分にあるわけですが、よほどでない限り、まずはやらせておく。なぜなら本人のキャラクターがあるから。
そうやって、子供はその子らしくのびのびと自信を付けてゆく。わからないときに見様見真似でやってる先へたくさんダメ出しされたら次の一手を出すのが不安になりますもんね。

そして林さんは輝く大スターと共に過ごしながら、自分もこうなりたいとは思わなかったようで、

「この人がいないと作品が成り立たないというような脇役になりたかった。今でも、主役が花なら、その横にいる葉っぱでいたい。ただ、枯れて汚い葉っぱだと花が綺麗に見えないから、青々とした大きな葉っぱでい続けたいとは思っています。」

と。
これにも感動してしまいました。
しかし続くエピソードでは、どんどん売れてきて忙しくなりすぎて遅刻の常習犯だったことや、三隅研次監督が随分気を遣ってくれたこと、市川雷蔵、勝慎太郎から叱られながらもかわいがってくれたことなどが語られています。そして美空ひばりとの共演の話が最初に来た時断ったら、長谷川一夫から激怒されたこと。

『バカ野郎!トップを目指さない役者がどこにいる!』

それで美空ひばりと撮影に入ると、

『長谷川先生についていて、なんでこんなことができないの?』
と。
最初は、歌い手に教えてもらうなんてとバカにしていた。しかし、見ているとたしかに間違いはないし、お客様は美空ひばりに手を叩く。
他人のマネをするのは嫌だった。
でもそこで、

「お芝居というのは、最初は人のコピーから入って、そこから自分自身へと抜け出すものなんだ」

と気付き、そこからさらに学びを深めていき…美空ひばりからも認められるようになったのは3-4年も経過していた頃だそうです。

汗をかいて一生懸命芝居をしている緒形拳の姿が好きになったという、緒形拳とのエピソードも良かったですし。

多くの大女優が主役の舞台で、その主役の相手方を勤めていた話がまた、実に興味深く。
ヒロインを引き立てつつ、自分も二枚目でいること。
そしてこれも長谷川一夫から習ったのが、舞台上で相手がやりやすくなるための自分の所作。
…なるほどなぁ〜!!!と。

「長くやっていく上で必要なのは、下地と引き出しです。下準備ができるのは、仕事がない時だけなんです。今のうちに引き出しにいろんなものを詰めておくべきですよ。」

今回の林与一インタビューも、実に奥深くて面白かった。共演する人がやりやすいように、映えるように立ち回ることで、演者も喜びお客様も喜ぶ。そうすると仕事が途切れない。

そして今回非常に印象深かったのは、良い師匠につくということは大切なことだな、と思いました。
ぜひ実際のインタビュー記事も読んでみてください。


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