#1 溺れる。
※短編小説
目の前に川が流れている。
きれいで、大きくて、ゆるやかな川。
川沿いで水中メガネ越しに遠くを覗いてみる。
溢れていた。手の届きそうで、届かない場所にたくさん。
あ、あの魚と目が合った。
そっぽを向いて、奥に泳いで行ってしまった。
「また、会いたいな」
足は交互に前へ動く。指の間に感じる水は少し変な感じだ。
前へ。前へ。何も考えずに、進み続ける。
小さなカニも、ザリガニも、不思議そうな顔でこっちを見る。
たくさん、遠くに溢れていたものが、冷たい体を包む。
そっと、つかんでみた。
あれ。
手の中には何もない。
目の前に溢れているのに、すぐ近くにあるのに。
足がつかなくなった。
体が勝手に流される。痛いくらいの勢いで。
顔を目一杯、上げる。それでも息ができない。
死にたくない。死にたくない。もがいても何もつかめない。
溺れる。
たくさんの笑い声が聞こえる。何を言っているかはわからない。
どんどん飲み込まれる。体は重く、もう動かない。
何やってるんだろうな。
もう、怖いなんて感情はなくなっていた。自分に少し笑えてきた。
あ、さっきの魚だ。
『また、会えたね』
口の中にたくさんの水が入ってくる。
意識がはっきりしない。それでも。残った力で、手を伸ばした。
届かなかった。
海にはたくさんの人が浮かんでいる。
川よりずっと、広い世界が広がっている。
もう誰も動かなかった。
ただ、浮かんでいた。
求めていたほとんどが自分を包んでいるのに。
もったいないな。
あ、アイツ、少しだけ動いた。
ソイツは弱々しく、手を上に伸ばした。
懐かしいなと思いながら、
キミを助けに、魚になって、海へ飛び込んだ。
*****
創作してみた。(創作の題名には「物語」と入れないことにした)
少し前、「大人とは何なのか」を子供の私から記事にしようと書いてみた。
書けなかった。
そもそも大人とは何なのか。20過ぎたら大人なの?なんだか違う気がして。
大人になりたくないと思ってしまった。あと5年、5年しかないと。
でも、大人になってみたいとも思った。だから、5年間。楽しもうと。
きっと5年たっても大人にはなれないな。本当の大人には、きっと。
今の私だからできること。きっとこれも今だから書けたこと。描けたこと。
これが今の答え。大人とは。
15の私からのあなたへの手紙。
あなたに、もう1度読んでほしい。
KaiTO