大人になるほど沁み渡る『プーと大人になった僕』
大人になったら、どうして忘れてしまうのだろう。純粋に何かを楽しむ心や、何も考えずに過ごす時間の大切さを。
この作品を観ると、子どもの頃に抱いていた気持ちを鮮明に思い出させてくれる。英国の児童文学作家、アラン・アレクサンダー・ミルン著『くまのプーさん』の数十年後を描いた『プーと大人になった僕』だ。
幼少期の頃の親友、プーやその仲間たちと別れて数十年。すっかり大人になったクリストファー・ロビンは仕事に追われる慌ただしい毎日を過ごしており、妻や一人娘と過ごす時間もままならない日々が続いていた。
その彼の前に突然現れたプー。
久しぶりの再会に喜びと懐かしさを感じながらも仕事に戻らなければならない彼に、プーは「仕事って赤い風船よりも大事なの?」と問いかける。 そして、いつしか忘れてしまった大切なものを届けるため、プーとその仲間たちは100エーカーの森を飛び出して彼が働くロンドンへ向かう。
本作の主人公、クリストファー・ロビンを演じるのはユアン・マクレガー。
彼といえばやはり、『スター・ウォーズ』シリーズのオビ=ワン・ケノービ役が印象的。主人公の師として、また誠実で穏やかなその役柄を見事に演じた彼に心惹かれた観客もきっと多いはずだ。
そして、プーとその仲間たちはCG等ではなく実際のぬいぐるみが使用されている。
プー自体が原作ではテディベアから着想を得た存在だからなのだろう。作中での動きも特に違和感なく、プーが二次元から三次元の世界に飛び出してきてくれた感覚にすら陥る。まさにこれは、制作陣の努力の結晶ともいえるのだ。
実はこの作品は2018年公開当初、実際に映画館で鑑賞していた。
当時は学生を卒業し社会人になった年で、初めて経験する会社での仕事や慣習に疲弊しかけていた時期。そんな時、大人になった背広姿のクリストファー・ロビンがプーに赤い風船を渡している本作のポスターに惹かれて、たまらず劇場に足を運んだというわけだ。
上映当時も涙した記憶があったが、改めて観返してみると涙腺にくるシーンがいくつもあった。特に個人的に染みたプーの台詞をいくつか紹介したい。
こうした、大人になったらどこかに置いてしまいがちな言葉を、プーはストレートにロビンにぶつける。とってもシンプルだけど、それらは思った以上に核心をついてくる。忙しない毎日に疲れてきた時にこの映画を観たら、きっと心地のよい発見があることだろう。
プーたちに再会し、次第に子どもの頃の純粋な気持ちを取り戻すロビン。傍にいてくれる家族や同僚たちとの接し方も、自ずと変わっていく。
「家族をこよなく愛している」と自負するロビンに対して「じゃあ、なんでいつも傍にいないんだ?」だとか、「家族のために一生懸命仕事をしているんだ」と言えば「君の一番大切なものは何?」といった言葉が返ってくる。
そういった問いからロビンが身の振り方を考え直していく様は、大人になった僕たちにも刺さるものばかり。日常の喧騒を忘れて、すっと心に溶け込む映画。それがこの作品の魅力でもあるのだ。