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名実ともに伊藤健太郎に新たな命を吹き込んだ『冬薔薇』

阪本順治監督らしい作品
投げっぱなしのような作品で申し訳ないと自身で仰られていたが、
それこそがこの作品の真意ではないだろうか。

【渡口淳】(伊藤健太郎)は、
夫婦である【義一】(小林薫)と【道子】(余貴美子)で営む海運業の次男。
長男は幼い頃にその船上での事故で亡くなっている。
時代と共に仕事も減り、なんとか営む家業を継がぬまま
様々な向かい合うべき事を避けて、いい加減にここまで生きてきた淳。
生きる希望も目的も特にない。何もない。
そんな彼が本当は欲しかったものとは。感じていたこととは。
人から逃げ続け、人から逃げられ続けた彼が、最後に選び手にするものは∙∙∙。
人間の弱さを赤裸々に剥き出しにした人間ドラマの今作。

この作品を 俳優 伊藤健太郎 で撮ろうと思った。と、
以前のインタビューで仰られてたのが
「なるほど、この感じか」と観てみてピタッとハマった。
それは彼自身の内省というだけでなく、良い意味も悪い意味も含めた
内から滲み出る”どうしようもなさ”や”流動的な佇まい”が
とても人間臭い説得力を携えていた。

監督自身が仰られていたように〔答えはない〕作品。
それぞれ個々が何を感じ、何を思うか。

誰もが陥る、そんなつもりじゃなかった普遍的なループ。
もういいや。と、手放す事の容易さに慣れてしまう日常。
別に不真面目なつもりはない。
苦しさも悲しさも心に抱えて、それなりに自分なりに一生懸命に生きている。

自分を取り巻く友情と家族と∙∙∙。
いつのまにか暗黙のうちに出来上がった他者からの評価や関係性に信頼性。
果たして自分はどうだろう∙∙∙。その関係性に甘んじているだろうか。
当たり前にある日々のちょっとした躓きを考えてみる。
良いことも悪いことも。でも生活して生きていくしかないのだから。

脇を固める俳優陣の個性がとてつもなく濃いのだが、
それがなんとも自然に馴染む土や海の匂いがするような作品だった。
その個性派の中で 坂東龍汰が素晴らしかった。
あんな演技もできるんだなぁと驚かされました。



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