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【8】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは?お蚕さん篇⑥
「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》
第8回 お蚕さん篇⑥ 稚蚕飼育「3令」
お蚕さんから糸を作り、染めて織って着物に仕上げる――この全工程をレポートする「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトです。
それは「私たちのシルクロード」。
前回「お蚕さん篇」⑤では、「稚蚕飼育2令」についてお話しました。今回は、稚蚕飼育の最終章・3令期に突入します。
■3令1日目 9月8日 起蚕したお蚕さんのお世話
【3令1日目】9月8日(火)晴 温度25度 湿度80%
起蚕7時(5割) 12時(8割) 16時(9割)
18:00 蚕体消毒 → 縮座 → 網掛け → 給桑
加湿すべて戻す
朝から、少しずつお蚕さんたちは脱皮して、動き始めました。
いよいよ3令期です。
蚕体消毒して、(以降、前回のお蚕さん篇⑤2令1日目をご参照ください)
縮座して、
網掛けして、給桑します。
■3令2日目 9月9日 漢方薬にもなるお蚕さんの糞(ふん)
【3令2日目】9月9日(水)晴 温度25度 湿度80%
5:00 給桑
11:30 除沙 → 給桑
19:00 給桑
日誌を見てお気づきかもしれませんが、眠期でなければ1~2令期は1日4回の給桑でしたが、3令から3回になっています。
これは、1~2令のお蚕さんは小さいので一度にたくさん給桑すると埋もれてしまう蚕がいることと、ムラ(お蚕さんの偏り)が出やすいからこまめに給桑したとのこと。3令はだいたい3回。あとは気候や温度などにより加減しているそうです。
朝7時前のお蚕さんです。早朝5時の給桑後、約2時間でずいぶん食べてくれました。
この日は「除沙」を行い、食べ残しの桑や糞(ふん)を掃除しました。
下の写真、中央の黒い粒がお蚕さんの糞です。
お蚕さんは、桑の葉しか食べないのでたくさんの葉緑素が糞に残っているそうです。昔はこれで顔を洗ったり、歯を磨いたりしたとか。花井さんも手作り石けんやクリームに入れて使っています。お蚕さんの糞は「蚕沙」(さんしゃ)という名の漢方薬としても使われているそうで、花井さんに教えていただいて初めて知りました。
ついでに加えると、花井さんは余った桑の葉を乾燥させて、ショウガと一緒にお茶パックに詰めて、水出しのお茶として飲むそうです。猛暑が続くころは1日に3リットル飲むのですって。働く尊い身体を、桑茶が支えているのですね。彼女の美しさの秘密は、ここにひとつあったみたい。
さて、今回のサービスショット。
身をよじらせる姿が可愛い! 私は最初「虫はこわい」と思っていたけれど、こうして花井さんの育蚕を追っているうちに可愛くなってきました。
19時に給桑。
近づいて見てみましょう。
順調に育っていますね。おやすみなさい。
■3令3日目 9月10日 晩秋蚕は栗とともに
【3令3日目】9月10日(木)晴 温度25度 湿度80%
5:00 給桑
11:00 給桑
19:00 給桑
早朝5時です。おはよう、お蚕さんたち。←もはや挨拶したくなるほど親しみを覚えるようになりました。
この日も給桑を3回行いました。
サービスショット。可愛いでしょ。
お蚕さんたちが桑を食(は)み、日に日に大きくなっていく一方で、花井さんは栗の木の世話もしていました。
秋の育蚕は、栗の収穫と重なります。熊本県山鹿市は栗の名産地としても知られ、花井さんの敷地にも100本以上もの栗の木があります。この栗の実を出荷することで得られる副収入が、花井さんが養蚕農家を続けてゆく支えになっています。そのため秋の育蚕は、春に比べて量を抑えています。
栗山を駆け回り、拾って、磨いて、選別して、市場に持って行く・・・・・・この仕事が加わるために、秋の育蚕は春以上に慌ただしく、体力的にもきついといいます。
それでも収穫できれば収穫の喜びがあるのでしょう。
しかし、今年は栗の収穫直前に台風が2度も襲来し、栗は未熟のまま落ちて廃棄せざるを得なくなりました。栗の木も4割ほど折れました。早く片付けないと、その後の収穫ができないため、毎日栗山の片付けをしなければなりません。
「栗の木同様、心が折れそうになりました」と花井さんは記しています。
■3令4日目 9月11日 お蚕さんの引っ越し
【3令4日目】9月11日(金)雨 温度25度 湿度80%
7:00 責め桑(眠2割)
13:00 石灰 → 蚕室移動
14:00 先輩農家さんへ配蚕
16:00 網掛け → 給桑
18:00 網上げ(遅れ蚕上げ)
午前9時。お蚕さんの多くは「眠」に入りました。
アップで見てみましょう。
3令の眠期を迎えると、稚蚕飼育も終わりとなります。ここで、お蚕さんたちは先輩農家さんと花井さんの蚕室と、ふた手に分かれます。
花井さんの蚕室は、母屋にある稚蚕室から、同じ敷地内で30メートルほど離れたところに建てられています。移動は、大きな手押し車にバラを乗せて運びます。雨のときは車で運びます。すぐ近くではあるものの、濡らすわけにはいきません。
花井さんの敷地内の通路。この後ろ右側が稚蚕室のある母屋、左側に蚕室があります。先輩農家さんへは、この通路を通ってお蚕さんを届けます。左右は花道を作るかのように桑の葉が茂っています。まさに「シルクロード」。
花井さんによれば、昭和30年代後半頃から養蚕の規模拡大のため、壮蚕(そうさん・4令~5令)は別の蚕室で条桑育(じょうそういく・枝で給桑すること)をするようになりましたが、それまでは5令まで家の中でバラ(第7回の最後に詳述)とよばれるトレイで棚飼いされていたそうです。その頃の家は、どこも同じような間取りだったとか。下の写真は、花井さんの染織作品を衣桁に掛けて展示したときの母屋。開口部が広く、風通しが良さそう。
さて、話を戻して、引っ越し先の蚕室です。
蚕台にブルーネットをかけたところに、バラから外し、蚕紙ごと並べたところ。「網掛け」後、給桑します。下の写真は近づけて撮影したもの。
このあと、網上げ(遅れ蚕あげ)しますが、詳細は次に回しましょう。
さあ、次のステージへ。
毎週火曜と木曜日にアップしている本連載。次回は4月29日(木)、4令期のお蚕さん達にぜひ会いにいらしてください!
*本プロジェクトで制作する作品の問い合わせは、以下の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」からお願いします。
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