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【14】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? お蚕さん篇⑫

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》
第14回 お蚕さん篇⑫ 乾繭から出荷へ

お蚕さんから糸を作り、染めて織って着物に仕上げる――この全工程をレポートする「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトです。
それは「私たちのシルクロード」。

前回「お蚕さん篇」⑪では、養蚕農家の花井雅美さんが育てた繭の、収繭から選繭までをレポートしました。今回は、出荷に向けた乾繭のプロセスとともに、プロジェクトメンバーのひとりがお蚕ファームを訪れたようすをご紹介しましょう。

■10月4~6、9日 「繭乾燥」を経て「乾繭」に

営繭(えいけん)が始まって8日ほどで化蛹(かよう:さなぎになること。蛹化ともいう)が完了し、そこから1週間ほどで羽化するため、その間に繭から糸を取る必要があります。
しかし、時間的に糸取りできない場合、生繭(なままゆ)のまま冷凍保存する方法や、乾燥させて「乾繭(かんけん)」にする方法などが取られます。

今回の「蚕から糸、糸から着物」プロジェクトでは、「生繭」から座繰りすることを選択したため、「冷凍保存」して冷凍便で糸づくり担当の中島愛さんに送られます。

しかし、それは今回育てた晩秋繭のほんの一部。群馬県の製糸場に出荷する大部分は、先輩農家さんの繭といっしょに繭を乾燥させた「乾繭」の状態で出荷します。通常、養蚕農家は生繭のまま出荷するのが基本ですが、熊本に製糸工場がない現在、乾燥まで行ってから出荷するそうです。

下の写真は、乾燥前です。

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下のパレットには、それぞれ3000グラムずつの繭が入っています。

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下の写真は乾燥庫。干し椎茸を乾燥するのと同じ機械で、数年前に熊本県蚕糸振興協力会が導入してくれ、それ以前に比べてぐっと作業しやすくなったといいます。

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乾燥庫にパレットを入れたところ。乾燥中にパレットの上下入れ替えをして、そのつど重さを量り、乾繭率を見ます。繭が42~43%の重さになるまで80℃で10時間ほど乾燥させます。

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この「繭乾燥」は、先輩農家さんの繭を含めて3日間かけて行います。

その後 (79)

乾燥終了後、湿気が戻らないよう、すぐに厚手のビニール袋に入れます。出荷は、栗の出荷を終えた10月後半に。

■花井さんのメール送信

2020年10月6日、繭の乾燥が始まった頃、花井さんは、中島愛さん、吉田美保子さん、安達絵里子のプロジェクトメンバーに一斉メールをくれました。一部を以下にコピーします。

おはようございます。
山鹿は肌寒くキリッと澄んだ空気の朝です。
晩秋繭が完成しました。今から冷凍庫に一時保管します。
秋の育蚕、一片の悔いなく、後悔なく、今の自分にできること、全てやりきりました!
この夏の気象による桑葉への影響が、繭質にどう出るか少し心配はありますが、出来る手と知恵は全て出し尽くしました!
とても楽しい全力疾走の育蚕でした。(←振り返れば)
本当にありがとうございました!

上記は、本連載初回の「見取り図」で、花井さんのコメントとして掲載したので、覚えている方もいらっしゃるでしょう。

花井さんに「全集中」していただくため、私たちメンバーは育蚕が始まる1週間前くらいから1ヶ月半もの間、連絡を取り合っていませんでした。
「花井さん、今頑張ってるんだろうな」と思いを寄せながら9月を過ごし、そろそろ連絡がくるかしらと思っていた10月6日。待望のメールが来ました。しかも「全て出し尽くした」と、心躍る言葉が連ねられています。

かねてからの約束どおり、私は出荷前の繭に会いに行くことにしました。

■10月16日 繭たちに会いに来ました!

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誠に申し訳ありません。前回思わせぶりに予告した、プロジェクトメンバーのひとりがお蚕ファームを訪れるって、なんのことはない、安達(私)のことでした。期待させてゴメン。

柿の実が色づき始めていたのと、山鹿の栗と秋の実りの競演になればと思ったことで、柿の実を描いた染め帯を締めました。着物は焦茶地に黄と朱で格子を成した上田紬です。絹のふるさと「お蚕ファーム」を訪れるのだから絹の着物は当然のこととして、帯に合わせて色で選んだだけの着物でしたが、後から思えば、信州上田は「蚕都」とよばれた町。蚕の神様の思し召しだったのかもしれません。

私はこの時点で、今回花井さんがどのような飼育をされてきたのか、まったく把握していませんでした。過去の花井さんのブログを読んで、だいたいの手順をおぼろげに認識していたくらいでした。

下の写真は、私が撮影したものですが「これは、なんていう名前ですか?」「蚕台(さんだい)。あー、そうですか。」「4令からここで育てる、ふむふむ」。というレベルです。

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蚕室を出て、今回のプロジェクト用の生繭を見せてもらいました。
花井さんが冷凍庫から出してきて、大きな笊(ざる)にあけてくれます。

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なんと美しいのでしょう。「純白」「無垢」「ひとつひとつの内に光が宿っている」「あたたかな微笑み」いくつかの言葉が胸に交錯します。でも口にはなんと出していたのか、よく覚えていません。

舞い上がっていたのか、この繭を手に取ったのか覚えていません。たぶん恐れ多くて触らなかったと思います。「冷凍庫に入っていたのに何故かあたたかい感じ」と思ったのは覚えているのに、触覚では覚えていないので。

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繭が入っていた木綿の袋に心惹かれたので撮らせてもらいました。生繭で出荷をしていたときは、この木綿の袋が使われていたそうです。この文字が示すのは屋号なのか、養蚕関係のどの段階を担っていたのか、今となっては分かりません。「昔の光いまいずこ」ではないけれど、養蚕文化盛んなりし時代のよすが、と思え、心惹かれる思いがしたのでした。

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笊には入りきらなかったので、トレイに入れました。これが糸づくり担当の中島愛さんに送る全量、5㎏です。着物約1枚分です。

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花井さんと生繭とのツーショット。(って言わないか)
すべてをやり尽くした、満ち足りた笑顔です。

■愛された日々を経ての今

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なんて美しいのでしょう。もっと近づいて見てみたいでしょう?
アップしてみましょうね。

どうです?
どの子も美しいから、トリミングに苦労しましたよ!
なんかね、「まゆ」「まみ」「まや」「まほ」「まよ」・・・・・・ひとつひとつに名前をつけてやりたいくらいの、慕わしさと親しみがあるの。

繭アップ

かつて私に子どもが生まれた時に、こう言ってくれた人がいました。
「可愛い、可愛いって、育ててると、ホントに可愛い子になるから。」

繭を見ていて「この子たち、花井さんに愛されて育ったんだな」と思いました。花井さんは養蚕農家として全力を尽くしたまでで、そんな感傷的な物言いは、かえって失礼かもしれないけど、でも私はそう思いました。

繭たちは翌10月17日、お蚕ファームから冷凍便で発送され、2日後に埼玉県の中島愛さんの元に届けられました。

プロセスとしては、次から糸づくりの段階に入るのですが、次回は「お蚕さん篇」最終回として、少し寄り道する予定です。出荷した繭たちとは別に、お蚕ファームに残った「毛羽」や「選除繭」たちのゆくえについてお話ししたいと思います。

毎週月・水・金曜日にアップしている本連載。次回は5月14日(金)にお会いします。どうぞよろしくお願いします。


*本プロジェクトで制作する作品の問い合わせは、以下の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」からお願いします。


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