『遮光』(25首)第3回U-25短歌選手権予選通過作
「遮光」/柊木快維
◯
お手軽なタイムマシンとして飲酒とか睡眠を乱用してる
性欲は水色の蛇のイメージで螺旋階段降りゆく僕へ
ママチャリを買って正解だったでしょ寒さで膀胱が縮むでしょ
死ぬことはいつでもできて柘榴の実熟れる速度で回想はすぐ
川沿いに町は歪んで盗まれた自転車がそこらじゅうに錆びつく
◯
饒舌なクレームのあとで泣き出してそれっぽく続ける保留音
入口の花瓶の細かい傷見つつ洋楽のような邦楽を聴く
令和だぞって誰か突っ込む居酒屋の蛸がはいっていないたこ焼き
初恋が綾波レイであることを年金の愚痴の次に話した
気の利いたたとえを思いつくまでにひとしきり降り終えるはつ雪
うつくしい女性が僕に脱毛を勧める動画 続けて2回
唇がひび割れていく 受話器ごし底なし沼が広がっていく
美少女がボンネットで微笑んでいる 笑い返すとクラクション鳴る
母に似た声に鼓膜は濡らされて、降ってない霧雨がしつこく
支持してる党のちがいで揉めたって中島みゆきはみんなで歌う
◯
ほとんどは読み飛ばしつつ詩を終えてつめたい水の結露に触れる
卓上のジンジャーエールが凪いでくる頃に濡れ場は終わり、佳境へ
ヘッドフォンからイヤフォンへ乗り継いで夜風にそよぐ遮光カーテン
おじさんをたらい回しにしていると僕に戻ってくる聖夜かな
〈あのちゃん〉でキーワード録画してるから川辺で鷺を見ていてもよい
君が代のBPMを高くして歌う友達の透けてる乳首
ときどき鳥が休みに来たりするだけだ パキラが枯れてからというもの
◯
曲がっても霊園はまだほど遠く、死ぬまでに読めない本のこと
がんばれと歌うアイドルの頭上に指名手配の速報ずっと
極刑の主文みたいにいろんなこと後回しにして冬の駅前