The Melancholy without Haruhi Suzumiya(短歌23首)
昨年12月につくった個人ネットプリントを加筆修正したものです。
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The Melancholy without Haruhi Suzumiya 柊木快維
神さまのチラシを配るおじさんの額を伝う汗のきらめき
老いた光の《生まれたときの光景をみたことがある》的解像度
歯が肌をつらぬくときの:病院の匂いの:甘く静かな記憶
難病はたちまちきみを魅力的に変えた 桜の舌が裂かれる
薔薇園で接吻している僕たちはTikTokを見たことがない
十代を思い出すとき脳内に流れる想像上のダーク・ウェブ
半壊の校舎できみと給食を残しまくった 花のヴァニタス
マジックミラー 頭痛のひどい夜などは聖書に弛みない検閲を
世界を変えた後で僕らはサイゼリヤへ、(夜の終わりは朝ではなくて、)
そしてイオンは解体された 訃報を忘れるのと同じ速度で
血塗れの電話ボックスでは僕が夢占いをしているだろう
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ただの人間には興味ありません。この中に〈僕〉がいたら、僕のところまで来なさい。以上。
光の夢遊 世界が犯されているのを泣きながら見ていた青年期
目隠しを取って、伸ばした手を取って、逆光に彼女はもう消え去って……
運命的な、余りに運命的な 蛇は隠喩として便利すぎる
県警に傍受されてる喘ぎ声・冬の、僕らの、アニメの中の
自主映画上映会の音漏れを聞きつつ夏の雪に抒情した
寒そうにしている女の子のために冷房を切る 静脈を切る
教室に不審者が来る妄想の-不審者は何故か-いつも僕の顔
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霧雨がますます細かくなるころに学級会は佳境にはいる
僕が絶滅してからじゃ遅すぎる 灯台に三人の人影
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文化祭の隅で僕らは『罪と罰』を下巻から読む まばゆい痛み
暗室が開かれてゆく 僕はもう、自分でここを出て行かなくては