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プレレジポスター(研究計画ポスター)やってみた

この記事はOpen and Reproducible Science Advent Calendar 2021の12月23日の記事です。

「やってみた」と言っても「発表してみた」という意味ではありません。「募集してみた」という話です。2021年12月4日〜5日にオンライン開催した日本人間行動進化学会(HBES-J)第14回大会にて「研究計画ポスター」というカテゴリを設けて発表を募集してみた顛末を、後世のために記録として残す、という記事です。

*記事内における意見は平石個人のものであり、同大会の運営チームを代表するものではないことを、予めお断りします。

プレレジポスターとは?

研究計画(目的、予測、方法)を事前にタイムスタンプ付きで登録しちまおうぜ、といのがプレレジ(pre-registration, 事前登録)です。心理学論文に、結果を見てから後付で考えた理屈(postdiction)を、あたかも最初から考えていた予測(prediction)かのように論文で書くHARKing(Hypothesizing After the Results are Known; HARKing)が横行している疑いがあったりして、いやいやそんなことないですよ。なんなら初めから考えていたってこと証明できますから!という、そんなこんなで導入されてきたシステムです。

プレレジポスターというのはそれの学会発表ポスター版ね、というと、ちょっと違うというのが私の考えです。いわゆるプレレジは「こういう計画でやります!」と宣言して、記録を残すものです。プレレジポスターは「こういう計画でやろうと思うんですが、皆さん、どう思われます? アドバイス求むです!」というものと思います。いわゆるプレレジと同程度の熱量と詳しさを持って書くけれど、まだ決定はしていない。そういう意味では、ちょっと名前がミスリーディングかな、とも思います。この点は後述します。

なぜやろうと思ったか

プレレジポスターの存在を知ったのは、昨年(2020年)の日本心理学会での日本心理学会若手の会による企画シンポジウム「若手が聞きたい再現可能性問題の現状とこれから」の話題提供を準備しているときでした。共同発表者の中村大輝さんがプレレジポスターについてのスライドを追加して下さったのです。長年磨いてきたシッタカ力を発揮して「あーあれね。確かに入れると良いかも」と100年前から知ってたかのように中村さんには反応してみせたのですが、実は初耳でした。これは良いものだと思ったので、当日の報告でもイチオシしたところ、質疑も結構盛り上がりました。当日の質問と私たちからの回答はこちらでご覧いただけます(内容はこの記事と被ります)。

いつかどこかの学会でやれたら(実施できたら)いいねーと思っていたら、意外と早くに機会が訪れました。今年(2021年)のHBES-Jの大会がオンラインでやることだけが決まり、開催2ヶ月前になって何も決まってない状況下、学会事務局でやっちまいましょうと副会長からお達しがあり、そんならプレレジポスターを募集してみたいですと提案したところ、あっさりと承認。もちろんあっさり承認されるだろうと思っていたので提案したんですけどね。会員数200名ほど、大会参加者数100〜150名ほどの小回りの効く身内感のある学会だからこその身のこなしの軽さです。でも学会って本来、同好の士の集まりみたいなもんのはずだし、あんまり肩肘張っても、ねぇ?

やりたいと思った大きな理由というのがありまして、こんな私でも査読とか雑誌の編集とかを細々とやらせて頂くことがあるのですが「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やる前に相談してくれればばば」というケースを目にすることが少なからずあるのです。というか、別に今に始まったことじゃなく「データ取っちまう前に誰かに相談できなかったのか」とか「データ取る前に言ってほしかったよ」とか、そういうことは、昔から良く思っていました。プレレジポスター、まさにそれじゃないですか。

懸念と対応

「あっさり承認」と言っても、何も意見がなかったわけではありません。先に述べたシンポジウムの時の質問やコメントも含め、いくつか「気になる」と言われていた点がありました。列挙してみましょう(いただいたコメントそのままでなく、平石がまとめたものです)。

  • 研究計画までの発表と、データ収集・解析までを行った発表が、どちらも同じ業績としてカウントされるのはアンフェアな気もする。

  • アイディアが他の人に盗まれないか、ちょっと気になる。

  • 大会は年1回で、申し込んでから発表まで数ヶ月あることを考えると、早く業績を挙げたい人には、せっかくの機会でも利用しにくいかも。

  • 雑誌などで事前審査を経てIPA (In Principle Accept)をもらった研究計画を発表しているのと、これからまだまだ改善してきたい研究計画を発表しているのと、混乱がないようにした方が良い。

  • 同じ研究テーマで「既に分析までした部分」と「次に計画している部分」がある場合には、どげんしたらよかかね。

だいたいこのような懸念が挙げられたと思います。「業績としてアンフェア」というのは、そんなもんかな…と思ったりしますが(「よく出来た事前登録は論文と見分けが付かない」)、気になる方が複数いるということは、やはり無視できません。何より「もう固めた計画の発表」なのか「まだ固めてない計画の発表」なのかの区別が、発表者・聴衆側についていないと、無意味な混乱が生じることは必須です。そんなこんなで大会準備委員会(=学会事務局)で色々と議論とアイディアを頂いて、次のような感じでやってみることにしました。

  • 名称は「研究計画ポスター」として、通常のポスターとは別カテゴリとして募集する。

    • 「プレレジ」というと「もう固めた計画」というイメージを持たれる恐れがあるので、もっと明確に「まだ固めてない計画」であることが分かるような名前を付けてみました。

    • まだ固めてない計画を募集することを、CFP明示しました

  • ポスタータイトルに (研究計画) と付すことを義務づける。

    • 業績カウントの問題もありますし、見分けがついたほうが聴く方もやりやすいかと考えました。

  • 第1著者として、通常のポスター1本、研究計画ポスター1本を出して良いこととする。

    • 1つのポスターに「分析までした報告」と「研究計画」が混在するとややこしくなるので、それを禁じる代わりに、それぞれのカテゴリで1本ずつポスターを出して良いことにしました。

    • もともと重複発表制限の明記とかしてないユルユルな学会なんですが、はっきり「1本ずつ出して良いよ」と書いたほうが、院生さんとか、初めてHBES-Jに参加する方とか、ユルい空気を知らない方には親切じゃないかなとも思い、明示することにしました。

    • そんなユルい学会なら、今までだって研究計画の発表はできたんじゃない?と思ったあなた、鋭い。その通りで、数年前に口頭発表でただの計画(というか「一緒に追試やる人いません?」というただのお誘い)を話した人とかいます。誰とは言いませんが。でもそれは古参会員だからできることで、多くの初心者には難しいと思うのです。

  • 研究計画ポスターにインスパイアされて研究をした際には、ちゃんと引用する必要があることを、念押しする。

    • 学会で計画を発表してたら、むしろ堂々とアイディアの優先権を主張できそうな気もしますが、他方で気になる人がいるのも分からないでもないので、敢えての念押しをしておくことにしました。

実際の募集はこんな感じでした。気合い入れてCFP書いたけど、誰も申し込んでこなかったらどうしよう。学会やめたろか(逆ギレ)とか斜め下方向に身構えていたのですが、ポスター申し込み33本中、8本(24%)が研究計画ポスターでほっとしました。なお8本中、タイトルに(研究計画)と付け忘れていたのは1本でした。素晴らしい。

・・・というところまで書いたところで力尽きました。あと、当日の様子、大会後アンケート結果などを紹介して、まとめとしたいのですが、年内には書き上げることを約束しましてアドベントカレンダーもありますので、取り敢えずアップさせていただきます。尻切れトンボで誠に申し訳ありません。(なんとか年内にアップしました)

当日の様子

大会はGather.townを使って開催されました。なるべく研究計画ポスターのところには顔を出してコメント&お礼を言うようにしました。自分が発表者と話すことに夢中になってしまって、もっと他の聴衆のコメントを聞いておくべきだったなぁと気がついた時はセッションが終わっていました。

大会後アンケート

大会後に学会員向けにアンケートを実施しました。大会不参加の方(15名)も含め70名の方が回答してくださいました。回答は全て匿名です。ポスター発表に関する質問への回答を中心に、簡単にまとめてみます。

どんなフィードバック?

研究計画ポスター、通常のポスターそれぞれについて、どんなフィードバックが得られたか尋ねました。回答はポスター発表者(共著者含む)にお願いいしたので、同じポスターから複数名が回答している可能性もあります。選択肢はBrouwersらの報告を参考にしました。複数選択可です。

全回答者70名中、研究計画ポスター発表者は9名でした。うち8名が何らかの選択肢を選んでくださいました。
全回答者70名中、研究計画ポスター発表者は23名でした。うち21名が何らかの選択肢を選んでくださいました。

研究計画ポスターでは「研究計画や方法について」のフィードバックを得られたという意見が多く見られました。他方、通常のポスターでは「結果の異なる解釈について」のフィードバックが多いという違いが見られました。これはBrouwersらの報告と似た傾向でした。もっと言うと、Brouwersらで見られた傾向がもっと強調された印象を受けます。ただそこには選択肢の文言のまずさもあったなぁと、それこそ結果を見てから思っています。例えば「結果についての異なる解釈について」とありますが、結果の出ていない研究計画ポスターですから、この選択肢は、まぁ、選ばれませんよね。筆者としては「(架空の)結果についての…」という含みも持たせた”つもり”だったのですが、回答者がそんな含みを必ず汲んでくれる保証もないわけです。研究計画について、事前に他者から意見をもらうことの大切さを、自ら証明してしまった感じがしています。

研究計画ポスターどう思う?

来年度以降の大会でのポスターカテゴリについても尋ねてみました。こちらは全回答者(70名)から回答してもらっています。複数選択可です。

全回答者70名が対象となっている。複数選択可。「と良い」行(52名)は、「〜と良い」回答を1つでも選んだ人の人数。「〜てみたい」も同様。両者の合計(78名)から、「〜と良い」も「〜てみたい」も選んだ人数24名を除いた人数を、「〜と良い」OR「〜てみたい」を選んだ人=ポジティブな選択肢を選んだ人数(54名)として示した。

研究計画ポスターについては、概ねポジティブな反応が得られたと思います。「敢えてカテゴリを設ける必要はない」とする回答であっても、発表そのものについては「許されると良い」と回答している方などもいらっしゃいました。そこで、1つでもポジティブな選択肢を選んでいた回答者の人数を数えたところ54名(77%)でした。他方で、自由記述欄で研究計画ポスターに否定的な意見を呈された方もいました。例えば、研究計画ポスターを認めるのならば「発表した計画は必ず実施しなければならない」といった縛りを設ける必要がある、といった意見もありました。ふむ。

アンケート前に個人的に気になっていたのが「敢えてカテゴリを設ける必要はない」という意見がどの程度あるのかな、ということでした。見てみると1割ですね。中身をもう少し分けて見てみましょう。

各選択肢の選択者数を会員種別ごとに示した。割合(%)は、各会員種別の回答者数のうち、当該の選択肢を選んだ人の人数を示している。各会員種別ごとの回答者数は、学生会員18名、正会員44名、準会員8名となっている。準会員は大会発表権のない会員。

「敢えてカテゴリを設ける必要はない」としているのは、学生会員では0人だった一方、正会員で14%(6名)、準会員で13%(1名)でした。これまたサンプルサイズが小さいので結論めいたことを言えませんが、(特に古参の)正会員が「わざわざそんなカテゴリを設けなくても、ねぇ」と考えた可能性があります。実際、計画ポスターなんて勝手に出せば良いので、わざわざカテゴリを設けるなら、その理由を大会主催者が説明するべきである、と言った意見もありました(複数の意見を平石がまとめたものです)。

もう一つ個人的に気になったのが、学生会員で「特に意見はない」選択者が相対的に多かった(28%)ことです。発表権のない準会員で多い(25%)ことは分かるのですが、正会員(7%)と比べても多く思われます。これが一般的な傾向だとすると、学会として不味いなぁという印象を持ちました。

まとめ

いい加減長くなってきたのでまとめます。

自分としては「研究計画ポスター、やって良かったんじゃない? 来年もやって良いんじゃない?」という気がしています。大入御礼となったわけではありませんが、それなりの数の発表がありましたし、発表者の皆さんは(アンケート設問のまずさはあったとは言え)通常のポスターとは違った種類のフィードバックを得られたようです。アンケートの反応としても、概ね、ポジティブだったと言えるのではないでしょうか。

幾つか課題も見えてきたと思います。

敢えてカテゴリを設ける必要はあるか?

なぜ敢えてカテゴリを分けたのか、説明不足であったかもと思います。言い訳すると、既にかなり長いCFPだったので、さらにくどくど理由を説明するのもなぁと思ってしまった面はあります。それでもやはり、次の辺りをちゃんと示しておくべきだな、と。

  • 学会に慣れてない参加者ほど抱きがちな「ただの計画でも発表しても良いのかな…」という不安を払う狙いがあること。

  • 計画段階のものと、データ取得&分析まで終わったものを同列に扱うことは不適切という意見もあること。

関連して「総説のポスターを出しても良いものか、明示してもらえると有り難い」という意見もありました。色々なカテゴリの発表を認めることを明示して、その代わり発表タイトルに「総説」とか「研究計画」とか「分析結果」などの文言を必ず含めるように定めても良いのかな、とも思いました。

発表機会は学会大会(だけ)で良いのか?

研究計画段階で色々な人の意見を聞けることは、キャリア初期研究者(Early Career Researcher, ECR)に、よりメリットがあるんじゃないかなぁと勝手に思っていました。しかしアンケート結果を見る限り、学生会員で「機会があれば研究計画ポスターを出してみたい」という人は28%で、正会員の45%よりもだいぶ少なかったように思います。理由はよく分かりませんが(単なるランダムな誤差かもしれませんが)、学会の時期(例年は12月上旬)とか、大学院生にとっての業績上の意味などがあるのかも知れません。記事の最初の方で紹介したコメントでも、早く業績を挙げたい人には使いにくいかも、というものがありました。研究計画ポスターだけを発表するもっと軽いイベント(「研究会」とか)を、院生に使い勝手の良い時期に企画した方が良いのかも知れません。ただ、それはそれで、人が集まるのかよく分からんなぁとも思います。どうでしょうね?

学会の位置づけ

研究計画ポスターの話ではなく、HBES-Jの年次大会にかんする感想です。もともとHBES-Jは、同じく人間行動に進化的アプローチから取り組んでいるけれどメイン学会が違う人たちの交流の場を設けたい、という狙いで作られたものでした。具体的に言えば、動物行動学会とか社会心理学会とか、です。そのため当初10年ほどは「学会」ではなく「研究会」を名乗っており、メイン学会で貼ったポスターをそのまま再利用しての発表をOKとしていました。研究会ができたのは筆者が修士院生だったころで、勝手に使命感に燃えて、あちこちの学会などで「こんな研究会やるので、そのポスターそのまま持ってきていただけませんか?」と声を掛けたりしていました。

そういう時代を経てきた身としては、今回の学生会員からの反応の薄さは、不味いなぁと思いました。恐らく筆者を含めた中堅〜シニア層が出しゃばり過ぎていて、院生やポスドクといった方々にとって、自分の意見を言える場とは到底思えないのでしょう。HBES-Jのような小さな学会は、ECRが好き勝手をやれる場であることに大きな意味があると思っているので、さっさと運営から身を引いて「仕事は任せる。責任は取る」という、かつての指導教員の姿を見習わねばならないと思った次第です。それならこんな記事を長々と書いているなって? ほんとそれです。

引用文献

Brouwers, K., Cooke, A., Chambers, C. D., Henson, R., & Tibon, R. (2020). Evidence for prereg posters as a platform for preregistration. Nature Human Behaviour, 4(9), 884–886. https://doi.org/10.1038/s41562-020-0868-z

メモ

オンライン学会について参考になる記事を目にしましたのでメモとして貼っておきます。おすすめです。


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