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二千年後の君へ3

 「まさか‥刀の勝負で握り飯を使われるとは。」

 「そう思う時点で、君は、逃げ下手だ。刀で勝つ事に囚われている。」


 「刀で勝つ事に囚われれば、刀が強い物しか勝てない。矢で勝つ事に囚われれば、優れた弓取りを揃えた側しか勝てない。弱者が、強者に勝つ秘訣は、固定観念という囚われの折から逃げる事にござる。」

 「刀が満足に使えなくとも、丸太をくりぬき籠城のための雨水を蓄える事は出来る。油を撒いて、橋を燃やす事は出来る。糞を出して投げる事など、赤子でも出来る。戦闘のための兵や武器、筋力や技術は‥わずか一瞬発揮できれば、百倍の敵にも勝てるのでござる。」


 …囚われの檻から、逃げる…

 「常識。伝統。美学。成功体験。大兵力。そういった檻に囲われた者は、固く強いが、檻の隙間を突かれると、逃げ道が無く、とことん脆い。弱者は、檻に囚われるべからず。卑怯や臆病と言われようが、自信を持って逃げるべし!」


 『逃げ上手の若君』北条時行と楠木正成の会話です。



 昨日映画『刀剣乱舞廻-々伝 近し侍らうものら-』を観に行きました。

 『ハイキュー』『僕のヒーローアカデミア』『ブルーロック』等も女性ファンが多く、客席の男女比は、女性8対男性2程度である事が多いですが「刀をイケメンに擬人化した刀剣乱舞」においては、私以外全て女性という空間が出来上がっていました。

 これは、私自身初めての体験で、新鮮でした。



 「土方さんは、坂本龍馬のように大きな未来を描けるような人ではなかった。忠義を尽くすことに全霊を注ぎ、それを周囲にも強く求めた。規律に厳しく融通もきかない。それに命を懸けた人だ。でも、そんな土方さんを俺は好きだった。だから俺は、俺の忠義を尽くす。」

 『刀剣乱舞』和泉守兼定の言葉です。


 私は、上記の言葉以上に、土方歳三の心理状態を描いた言葉を知りません。

 上記の和泉守兼定の言葉にあるように『刀剣乱舞』においては、一番近くで持ち主(元主)を見てきた刀と、元主との邂逅がある所が、私は好きであるとともに、とても勉強になります。

 一番近くで見てきた刀だからこそ、元主の栄光だけではなく、苦悩も孤独も不安も、感じ取る事が出来るのです。


 『刀剣乱舞廻-々伝 近し侍らうものら-』の主役の1人。

 へし切長谷部。


 その不思議な名前の裏には、織田信長の逸話があります。

 ある日、観内という茶坊主が、信長の前で粗相をしました。

 激昂した信長は、茶坊主を斬り捨てようとします。


 しかし、茶坊主は、棚の下に隠れてしまいます。

 振り上げても斬る事が出来ない信長は、棚の下に刀を差し入れて、茶坊主の身体に軽く当てました。

 すると、軽く当てただけにも関わらず、その刀を茶坊主の身体を「圧し切って」しまったのです。

 この恐るべき切れ味を讃えて、信長は、この刀に「へし切長谷部」と名付けました。


 その後「へし切長谷部」は、信長から毛利討伐への献策の功に報いる為、黒田官兵衛に渡されました。

 官兵衛は、信長配下の武将ではありますが、直臣でもなく、秀吉の軍師です。

 直臣でもない、官兵衛にあっさりと渡す事に対して、擬人化した「へし切長谷部」は、不満を持ち、信長に恨みを持っています。


 『刀剣乱舞廻-々伝 近し侍らうものら-』においては、そんな「へし切長谷部」が、官兵衛と邂逅します。

 舞台は、毛利討伐の総仕上げ、備中高松城。

 そして、本能寺の変の前日です。


 『刀剣乱舞』を観る事で、戦国・幕末を、起こった出来事だけではなく、その出来事に組まれた各人の思いを知る事が出来る為、歴史を立体的に観る事が出来るようになります。



 戦国・幕末に次ぐ、エキサイティングな時代は、源平合戦から義経という天才が現れ、頼朝と義経の兄弟間の確執が描かれる時代と、足利尊氏と新田義貞により鎌倉幕府が倒され南北朝で天皇が2人存在した時代でしょう。

 『逃げ上手の若君』は、後者の物語です。


 実は、鎌倉幕府において、頼朝に代表される源の血筋が将軍として君臨したのは、3代までです。

 先の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の主人公・北条泰時とその子孫が暗躍し、1203年以降は執権として、実質の権力を握っている時代。

 これが、鎌倉時代の政治です。


 そして、その執権北条氏の正当な後継者である北条時行が、足利尊氏と新田義貞に、鎌倉幕府を滅ぼされてからの物語。

 それが『逃げ上手の若君』です。

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