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切り抜き小説を作ったハルヲくんのこと

主に進学と仕事の話です。

夏になると、大学生の頃にエントリーシートを書きたくなくて書きたくなくて鬱々とした就活を思い出す。
結局ほとんど履歴書すら出さず新卒採用を諦めた。私は、嫌なことから逃げて生きている。

志望校は国語便覧で選んだ

高校は偏差値を比較されるのが嫌で、「家から近い」という流川楓的な理由で決めた(当時SLAM DUNKは読んでいなかった)。

高校生になると、思春期をこじらせてしまい、普通の大学に行ってネクタイ締めたサラリーマンになって年収で比較されたるのが嫌だなと思って芸術家になることにした。
芸術家はネクタイを締めなくて良いし、年収で比較されたりしない。

しかし、私は絵も彫刻も音楽もさっぱりだったので、もう一度悩んだ。
安易に導き出されたのは、「小説家」。思春期をこじらせた私は友人付き合いもうまくなく、一人で黙々と仕事をする小説家はうってつけだと思ったのだ。

そうなればあとは早い。国語の教材・国語便覧には、著名な作家のプロフィールが掲載されていて、出身大学も書いてあった。ぺらぺらめくって、勉強せずに入れそうな大学を探す。
東京大学・早稲田大学が並ぶなか、最も偏差値が低く作家が複数名掲載されていたのが日本大学芸術学部文芸学科。吉本ばななと林真理子の出身校である。

こうして「サラリーマンになりたくない」という理由でそれが叶う小説家を目指し、日本大学芸術学部(以下日芸)を受験し、見事入学したのであった。

書きたいことがないと小説を書けない

不純な動機ながらも小説家を志望し、多数の作家を排出する日芸に入学したが、一向に小説を書けなかった。
理由はカンタン。
小説を書きたいわけではなくて、小説家になりたいだけだったからだ。もちろん、文学が特別好きだというわけでもない。(人並みに本は読みます)

しかし、今更後戻りはしたくないし、ネクタイを締めてサラリーマンになるわけにもいかない。ちょっとどうにか書きたいことはないものか…。
と嫌なことから避けるために小説を書きたいなあと思い続け、いつの間にか時間切れ。大学を卒業してしまった。

冒頭の通り就活を諦め、やりたいことなんてないんだよなあ。とぼんやりフリーターとしてTSUTAYAでレジを打っていたら、父に「とりあえず働いてみろ」とテレビ番組の制作会社を紹介された。
たしかに、テレビ番組を作る人はネクタイを締めないし、番組のおもしろさで評価されるので、年収で比較されない。もしかしてありよりのありなのでは…?
それに、ぼんやりするのも飽きていたのでちょっと刺激をもらいに話だけでも聞いてみるか。とこれまた軽い気持ちで貴重なお話を聞きに伺うと、実は面接だったらしく、その場で採用になり、翌月から働き始めた。

やりたいことは、まだない。

会社員になっておよそ10年。いまだにこれといってやりたくない。
面接などで「10年後どうなっていたいですか?」とか「キャリアプランを教えて下さい」といった質問をされると、本心では期待通りの答えができないので、思ってもいないことをペラペラ話すことにしている。
あるいは、「逆にこの会社は10年後どうなっている予定ですか? その時必要とされる人物像を教えて下さい」などと逆質問し、面接官を困惑させてしまったりしている。(悪意は一切ありません)

やりたいことがなくて辛くないですか?とか将来のことちゃんと考えますか? みたいなことを聞かれるときもあるけれど、それはちょっと違う。なぜなら、「嫌ではない」状態になりたいのであって、それが割と常に叶っているので、割と常に良いのである。

なので、やりたいことがなくてもまあ大丈夫なようだ。


岡崎京子のマンガ「Pink」を久々に読んだ。たしか、就活を諦めたころに古本屋でみつけた一冊だ。
金持ちのツバメで小説家志望の学生ハルヲくんは、小説家志望にも関わらず、書きたいことがない(私と同じだ)。書きたいことがなさすぎて、新聞や雑誌の切り抜きで小説を作る(私にその発想はなかった)。

まあそうあせらなくていいんじゃない? 意外となんとかなるよ。というオジサン目線でハルヲくんと学生の頃の自分を励ましたいなと思ったのでした。


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