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ミニシアターのある街を歩く
横浜は伊勢崎町の商店街の角に、ひっそりと佇むミニシアターが、「横浜シネマリン」だ。
一見「こんなところに映画館があるの?」と思わせるような立地に、息を潜めている。
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その日は映画友達に、1967年の映画、「マルケータ・ラザロヴァー」が日本初上映するから観に行こう!と、横浜に誘われたのだった。
その友達とはお互い観たい映画に誘い合う仲だ。この前は私のリクエストで、ジム・ジャームッシュの「コーヒー&シガレッツ」を目黒に観に行った。
お互いの映画のセンスを信じてるし、その後のレビューのぶつかり合いなんて、ぶつかり稽古のように激しく塩を撒きたくなるのだ。だけどぶつかり合いの後は固く握手をする。こんなことを5年くらい前からずっとやっている良い関係の友達である。
私は仕事を終えて、横浜へと向かった。正しく言うと関内なのだが。
映画は夜の20時から。まだ映画の上映までは時間があったが、二人で落ち合って「まずは映画館の場所を確かめに行こう」となった。
ガヤガヤしている商店街を歩き、「本当にこんなところに映画館があるんかいな」と思いながらスマホで今日観る作品のあらすじをさらっと読む。私の感想は「村上春樹さんの小説みたいな感想を書いてる人が多いね…」だった。ちょっと難しそうかもの意である。
少し歩くと「横浜シネマリン」という看板が見えた。
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「おおお」「めっちゃいい」「看板のロゴがなんかもうすごい」「映画館の隣が喫茶店なのもエモくてギルティすぎる」
私たちは矢継ぎ早に横浜シネマリンの感想を口にして(語彙力は失っている)(お互いの話は聞いていない)写メを撮りまくった。
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私においては、「あの映画を観たい」はもちろんだが、「映画館が観たい」と言う気持ちが強すぎて、「どこの映画館で観ようかな」と言う楽しみがある。「音響が良い」「設備が良い」よりも「あの映画館の外観・ロビーが観たい」と言う気持ちに若干傾いているかもしれない。
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ひとしきり興奮し尽くした私たちは、長い商店街をもう少し歩いてみることにした。
この日は少し秋が近づいてきたような時期で、知らない街を散策するのにはちょうど良い気温だった。パチンコ屋や飲食店などが雑多と並び、調べてみると、かつては映画館がもっと点在していたとのこと。この商店街に映画館がひしめき合っていたなんて、想像するだけで涎が垂れる。
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しかしながら、2000年代初めにVHSやDVDが普及し、だんだんと衰退していったとのこと。時代の流れ的には仕方ないが、寂しすぎるエピソードだ。令和になっても、その映画街を訪れて涎を垂らしたかった。
野毛の方まで歩くと、異国情緒が溢れるような街並みになってくる。
レトロなスナックや昔ながらの街並みも残っていて、酒好きの私たちは外で座って食事ができる居酒屋で、映画の前に一杯だけやることにした。あんまり飲みすぎると長い映画の間寝ちゃうからね。
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実は私に名作「LEON」を教えてくれたのは彼女なのである。何年も前にDVDを貸してくれたのだ。
そこから私はLEONが「人生の一本」になっちゃったんだから、彼女には本当に感謝したい。
少し陽が傾いてきた頃、私たちは横浜シネマリンに踵を返した。
地下へと続く階段を下り(地下にある映画館は秘密基地のようで本当にワクワクする)、
そこから166分、1967年にタイムスリップした。
誰かと映画を観て、エンドロールが終わって客電がつく時、少しだけ緊張が走る。
「面白かったねー!」「つまんなかったねー!」とその場で言うのも趣がない気がして「ポップコーンこぼしまくっちゃった」とか超どうでもいいことを言ってしまう(もっと趣がない)。
そして客席を出たあたりで「どうだった?」と、ニヤニヤして相手の気持ちを伺うのだ。
秘密基地の階段を上がって隣を見ると、すっかり暗くなった空と「喫茶あづま」。
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「今すぐここで語りたい!!」と思ったものの、時間は23時近く、もちろん閉店していた。
何人の人がこの喫茶店で映画の感想を語り合ったんだろう。何人の人が胸をいっぱいにしてこの階段を登ったんだろう。
「やっぱ難しかったね」「うん、人類って偉大だなって思った」
「1967年の映画をミニシアターで観ちゃったツウな私たち」にちょっぴり酔いながら、ゆっくり、ゆっくりと階段をのぼり、一段登るごとに令和に戻っていったのだった。
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おしまい