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田中潤
2020年12月30日 21:49
目の前にはミカンの積まれたカゴ、スナック菓子、カフェオレ、テレビのリモコン、携帯、充電器、ゲーム機。もちろん身体はこたつの中。 完璧。わたしの年末年始はこれで決まりだ。ほぼ動かずに何処にでも行ける、宇宙船こたつ号。 あとは邪魔さえ入らなければ。「ねぇお姉ちゃんってば」 ゆさゆさ、身体が横揺れしている。もちろん地震ではなくて、妹のせいだ。「なによ」「さっきから呼んでるんだけど」「だ
2020年12月23日 23:18
「わたし、サンタさんをみたことがあるの」 大真面目な顔で言うもんだから笑っていいのかわからなくて、とりあえず苦笑いを浮かべてみた。もう一度彼女をみても自信満々なのは変わらないから、これは本気のヤツだと確信。しかもゲームでよくあるような、話を聞かないと先に進めないパターンだ。 さりげなく、ちょっと頭の悪いふりをして聞く。「そもそもさ、サンタクロースってほんとにいるの?」「え、当たり前じゃん
2020年12月16日 21:44
夏休みに読もうと借りていた本は、十二月になっても開けないままだった。 特に読まない理由はないのだが、今日はいいや、を繰り返した結果半年が過ぎた。 図書館からは催促のメールが月イチで届く。定型文には図書館特有の温かさを感じられなかったけれど、無機質さはわたしを責め立てているようだ。 申し訳なさがあるうちに返却しようと決め、手近なトートバッグに図書館の利用者カードと借りた本を入れる。 外
2020年12月9日 21:38
目に飛び込んでくるイルミネーションは、痛々しかった。 バイト帰り、イルミネーションに照らされた街を睨んで歩く。 商店街の街路樹も、デパートの中も、一軒家の玄関も。どこもかしこも、すっかり煌めいている。 クリスマスツリーのオーナメントは、パンと似ていると思う。世の中の綺麗なものをぜんぶひとつにまとめて捏ねて、小さく切り分けて、丸めて発酵させたらできあがり。パンみたいに美味しくないのだけが残