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田中潤
2020年9月16日 22:01
好きなひとからもらった言葉と好きな本や映画の言葉だけをまとって生きたいのに、どうでもいいひとから言われた些細な一言が、刺さって抜けない。 のどに詰まった魚の骨みたいに、ずっと気になっている。 それは高校生のとき。 前はそこそこ仲が良かったけれど気付けば話すことすらなくなっていた、学生にとってありふれた関係のひとだった。 苗字は荒巻で、下の名前は……。 卒業してから三年ほどしか経ってい
2020年9月9日 21:33
つい最近紙製にリニューアルされた赤い包み紙を手に取り、破った。中から甘ったるいチョコレートの香りが立ち昇る。ちょっぴり身体に悪そうなこの香りは病みつきになる理由のひとつだ。 思い切りかぶりつこうとしたが、横から強い視線を感じて手を止める。「なに。あげないよ」「いや、割らないの」 彼は包み紙を両手で持って半分に割った。パキ、と小気味いい音が鳴る。「だってひとりで食べるんだよ」「半分こ
2020年9月2日 21:37
ホーム越しに、お揃いのシャツをなびかせて走る彼女をみつめた。彼女を待っていたかのように、ちょうど到着した電車に遮られてみえなくなった。 彼女が電車に乗り込んだことを確認してイヤホンをはめる。携帯と接続して音楽を探した。 一日の終わりは必ず寂しくなるから、帰り道用のプレイリストを再生する。楽しい曲をかけて無理やり気分をあげるより、切ない曲でしっとりと余韻に浸るほうが好きだ。その日をうまく終える