🎩BLワールド備忘録🎵『さよならトロイメライ』🌸🎶

尾上与一著
笠井あゆみ画

『トロイメライ』とは夢想、夢の中で思うこと。

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こんなにも、切なく苦しい、身を切るような愛の形があるのか…💦
読むほどに思わず、胸が焼けついて息ができなくなるほどだ。早くこの苦しみから抜け出したいと思いながら……💦ページを捲る手が止まらない

あらすじ

貿易商を営む宗方家に執事見習いとして入った弓削晶ゆげあきらは、嫡男、鉄真の「船を港に導く灯台を建てたい」という夢を、側で支え一緒に叶えたいと願う。二人がささやかで清らかな信頼を静かに育んでいたある日、弓削は宗方家当主である鉄真の父に犯されてしまう。生きる意味を忘れ弄ばれる日々を過ごしていた弓削は、とうとう鉄真や弟の一誠にまで男の狂妄が及んだとき、彼等を守るため、当主を切り殺す…。
罪人であり仇となった弓削に、鉄真は口おしい思いで、一生そばで罪を償えと命じるのだった…。
鉄真と弓削、波乱に満ちた二人の純愛の行方を狂おしく艶やかに描いた大正浪漫が今、ここに開幕！

本文より

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文章が美しく、読んでいくと情景が鮮やかに描き出される。雨の音。かぜの強さ。その場面に流れる臨場感がストレートに伝わってくる。
大正時代の和と洋の調和した大きなお屋敷の庭に咲く色とりどりの花たち。
薔薇、鈴蘭、浜なす、桜、椿……。
溜め息が出るほどの情景が文章のなかで彩づく。すごい表現力だ。

その描写力は登場人物たちの心情にも細やかさを増す。鉄真と弓削ゆげが、お互いを思うがゆえに心をみせあうことが出来ないもどかしさ。そんなふたりを唯一繋ぐ小さなオルゴールの小箱。
そのメロディはトロイメライ。

庭の隅に置いた椅子に、垣根の花に埋もれるようにして弓削が座っているのが見えた。膝の上にはオルゴールを置き、半睡まどろむような表情でじっと音色に耳を傾けている。弓削はときどきああしてオルゴールを聴く。
夢の中にひととき戻って拠り所にしているような弓削の姿を見て、鉄真は急にあそこに駆け寄りたいような歯がゆさで泣きたいような気分になった

P207より抜粋

この場面は、笠井あゆみ氏のはかなげなイラストによって表紙に描かれている。文章を読むだけでこぼれ落ちる花びらたちがキラキラと輝きながら舞い落ちる様子が浮かぶ。

見えているものと見えないもの

  罪人となってしまった弓削を痛めつけることでしか守れない自分を鉄真は歯噛みする。
時は大正。元大名家の呉服所をしていた宗方家は幕末と共に貿易商となり大きな発展を遂げ、今では総勢数百人に及ぶ人員を抱える大商家だ。当主の一挙一動は常に多くの使用人たちに見られているのだ。
『親の仇であり、慰みもの』という位置に弓削を置いたのは、使用人たちへのケジメと当主としての威厳を示すためだった。
鉄真の5才離れた弟の一誠は、皆の前で弓削の頬を殴る兄に心を痛める。
「お兄さまは酷い」まだ幼く事情を知らされていない弟の一誠は、昔三人で過ごした頃の兄と別人だと顔を歪めて呟く。
そんな一誠に微笑みながら弓削は言う。
「鉄真さまは誰よりもお優しくていらっしゃいます」
「そんなわけない。さっきも弓削を叩いたじゃないか」
まだ幼い彼には到底理解出来ない。
見えているものと見えないもの。
傷つきながら辛くあたる鉄真の苦しみ。
変わり果てた兄の姿に戸惑う一誠。
自分のためにすれ違う兄弟に真実を明かせない歯がゆさを弓削はのみ込む。
それぞれが相手を思うあまりに遠ざかる想いが切ない。

無垢なゆえに人を惑わす

純粋でまっさらな、世間など何も知らない弓削が、どうしてこんなにも悲惨な目に会わなくてはいけないのか？
父を失くし傾いた家計を少しでも助けたいと、見習いとして宗方家にやって来た当時、何もかもが珍しく緊張の連続だった。執事の細かい決まりごとを覚えるのに必死だっただろう。そんな健気な姿は誰の目にも初々しく移ったに違いない。鉄真や一誠も彼をいつまでも側に置きたがった。だが反面、人は真っ直ぐなその健気さや純白なものを見ていると、傷つけたい、壊してしまいたいと思ってしまうのだ。

線の細さ、はにかむ微笑みの儚さ。彼独特の黒い目許が睫毛を伏せて愁いを含むと、黒いとんぼが羽ばたくようだった。弓削ゆげを見ているとその白い初雪を汚したい、波紋ひとつない鏡のような水面を叩き割ってぐちゃぐちゃにしてしまいたい。弓削にはその衝動を掻き立てる許しがたい精妙さがあった。男の劣情を誘うのは、けっして豊満で明るく優艶な女ばかりではないと、鉄真の年齢になれば理解出来る。
  弓削が燻らせる被虐の淫靡さは一度囚われれば、あとは坂を転がり落ちるばかりだ。

P105から抜粋

理不尽にも穢れてしまった我が身を弓削は『蛆虫よりも穢れた存在』として、最低限粗末に扱う。自分に残された道は鉄真のためにこの身体を盾にすること。そこには微塵も恨みがましさがない。
本当ならさっさと宗方家を出て自由になりたいと思うはずなのに、弓削には鉄真の側から離れることの選択肢がない。むしろ、その方が死よりも辛いのだ。

『穢れていて、歪んでいて、美しい人』

成人した一誠が、大方の事情を察するようになって、弓削をこう表現する。
どんなに鉄真を慕っていても穢れた自分がその想いを告げることは許されない。誰よりも弓削自身が許さないのだ。鉄真は太陽だ。大きく明るくすべてを照らし灯台と言う夢を実現するためにいる。その輝きを守るために我が身はあるのだ。忠実を守る犬の如く。

翔ばない鸚鵡

一方、鉄真は当主と言う立場と灯台を建てることへの執着からますます多忙を極め、諸外国との貿易も政界への足掛かりとなる貴族たちのあしらいも立派にこなすようになった。鉄真は弓削を自由にしてやりたいと、さまざまな手を使うが、弓削は頑なに宗方から出ようとしない。
それはあたかも、母が愛したコンゴウインコのようだ。極彩色の大きな鸚鵡オウムは鉄真の声真似で弓削を呼ぶ。足の鎖を外しても、止まり木から羽ばたくことはない。まるで、翼を忘れたように。

鉄真が、愛するがゆえに手をあげなければならない自分の立場に辟易し、逃れたいと思うのは当然だろう。
そんな時、重要な取引のために出港した船が沈み、宗方通商の社運を賭けた謝罪交渉のため台湾へ誰かを派遣しなくてはいけなくなった。相手は台湾マフィアだ。行ったところで無事に帰れる保証はない。
誰もが尻込みするなか鉄真は弓削に白羽の矢を建てるのだった……❗️
はたして、マフィアとの交渉は成功するのか？弓削の運命は…⁉️そしてふたりの想いはこのまま引き裂かれてしまうのか？手に汗握るクライマックス❗️
是非手に取って確かめてほしい❤️