金庸ワールド『雪山飛狐』『飛狐外伝』
徳間書店 金庸著
1956年。いまから67年も前に書かれたものであるのに、少しも古さを感じない。巧みな人心の駆け引きや脆さ、危うさ、保身に公ずる者、愛憎に道を誤る者、今も昔も人の心のあり方で、物事は紡がれてゆくのだと改めて思い知る。
金庸氏は「いつの時代であっても、その時の常識や規律よりも、人と人との心のやり取りが物語をつくるもの」と語っている。
金庸小説はまだまだ序の口しか読破できていないが、新たなヒーローの登場に心踊るのである💘
『雪山飛狐』なる胡斐の、聡明ですこぶる強靭な身体能力、狭義心に熱く、恋多き若者で何よりもプラス志向の頼もしさ❤️
どんな逆境にも、必ず道を切り開き、我が道をひたすら進む雄々しさ。
彼のしがらみのなさが、武林の世界には避けては通れない面子や体面に縛られた俠客たちには、羨望と恐怖をもたらす。
どこにも属さず誰にも頼らない、孤高の俠士。
なんとも心憎いのは、彼が武力のみならず詩にも造詣が深いこと。
苗人鳳の愛娘、苗若蘭と琴のしらべに乗せて交わす詩のやりとりは緊迫する情勢の中に、ふと見上げた星空のように、おだやかで艶っぽい場面だ。
実は幼いころに出会っている二人の、多くを語らずとも通じる阿吽の呼吸を思わせる。
苗若蘭はひげも髪も伸ばし放題の荒くれ者が、己の放った詩の意味を汲み取り返してくれたことに心打たれる。
胡斐の方も、手練れの報復を予想していたのに、たおやかな美少女の対応に痛く恐縮し、更には琴の調べにふと、胸にじんわりと暖かいものが流れてくるのを感じると言う、ふたりの再会がみずみずしい。
このように、甘い感情の行き交う様を丹念に描いてくれるところは金庸小説の魅力のひとつといえる。
見所のひとつである『 雪山飛孤』の【仰天の結末】は金学(金庸小説の愛読者たちの集まり)の中でも謎のひとつとなっているが、読者からの強い要望により書き下ろされた『飛孤外伝』を読めば自ずと読者には「ははあ、ここにヒントがあるじゃん❗️」と納得させられる。
そこには胡斐の成長と共に育まれてゆく人情の深さや義侠心に熱い理由が綴られていて、彼の初恋や師と仰ぐ義兄の存在が後の荒くれ者の内面を作ったことが、わかるようになっている。
わたしは『飛孤外伝』から読んだのだが、伏線となる人物に気づかず読んでしまったので、発行順に素直に『雪山飛孤』からのほうが良かったかも。
その方が、(あっこいつこんなとこにいたのか)って場面が分かりやすい。
が、物語のキーワードの謎解きが『雪山飛孤』にあるので、それは後においておきたい方は『飛孤外伝』からでも面白いかも🎵
飛弧外伝~レガシー・オブ・ヒーロー~
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個人的には胡斐が辮髪なのが気にいらないけど、見てみる価値はあるかも。
原作では、「辮髪も結わず、濃い髪を雑草のようにぼうぼうに伸ばしているありさま」とあるので、最後はそんな雄姿がみれることを期待したい。