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魔道祖師考察~『秘曲 笑傲江湖』にみるオマージュ~

「魔道祖師」にハマったのをきっかけに「仙師」や「武侠」を知りたくて中国ファンタジーから武侠物語を読んでみた!
ブロガーさんからの情報にレジェンド金庸の武侠小説の数々のシーンがオマージュとして魔道祖師にちりばめられているというので、早速読んでみたのが秘曲笑傲江湖ひきょくしょうごうこうこ

ここには魏無羨のベースになるシチュエーションがたくさん見つかる。

徳間書店 1998年刊行 全7巻

『秘曲 笑傲江湖』あらすじ
侠客や武芸者が暗躍する江湖。武林と呼ばれる武術界には複数の剣術派が存在し、その剣派は正派と邪教が対立し、「江湖統一」を目論む輩がいた。
互いに独自の剣術の秘儀を磨き牽制しあう中、最強の秘儀といわれる「辟邪剣譜へきじゃけんぶ」の奥義書をめぐり、武林に壮絶な奪い合いが繰り広げられることに…!
一方、正派と邪教の立場にありながらも友情を育む者たちもいた。衡山派の劉正風と邪教派日月神教の曲洋は笙と琴による秘曲『笑傲江湖』を作り上げ、「いつの日か正邪の隔たりの無い世の中を」と願いながら惨い制裁の罠に身をとおじた。
正派のひとつ、華山派の一番弟子である令狐冲はひょんなことから、この譜面を託される。
「どうか、この曲を和平を引き継ぐ勇者に渡してほしい」と今際の悲願を受け取ってしまった令狐冲は義侠心を燃やすのである。
しかし、その譜面が『辟邪剣譜へきじゃけんぶ』ではないかとの嫌疑がかけられ、令狐冲は大きな陰謀の渦に巻き込まれてゆく。
正派対邪教、善と悪、光と陰。交錯する武力と呪術の駆け引き。加えて同派内の跡目争いが絡まりあい、果たして本当の悪とは?真実の正義とは?を問いかける社会派小説。

本文より抜粋


魏無羨の原型【令狐冲れいこちゅう



令狐冲れいこちゅうは、孤児だったところ、華山派総師岳不羣がくふぐん夫妻に育てられた。
聡明で剣の腕もそこそこだが無類の酒好きが玉に傷。
おおらかな性分で小さなことには拘らない器を持ち、
崋山派第一弟子として、多くの子弟に慕われている。中でも岳不羣の一人娘の岳霊珊がくれいさんには本当の兄のように信頼が厚かった。令狐冲は密かに岳霊珊に思いを寄せているが、自分の出自を思うとなかなか言い出せない。悩める若者なところがまた、純朴で憎めない。
彼は無敵なマッチョでもなく、優等生でもない。時には考えるよりも先に体が動いて、そのために負傷したり、九死に一生を得たり。
我が身を顧みず、困っている人を放っておけない。
例えその結果が有らぬ嫌疑をかけられるとしても、手をさしのべてしまう義理人情に厚い狭義の若者である。

武林の正派が一同に介する衡山派の総会に行く道すがら、手籠めにされそうになっている美貌の尼僧、儀琳ぎりんを助けるため、色魔の田伯光でんはくこうと一戦を交えることに。後にそれがもとで謹慎を言い渡され洞窟での一年間を余技なくされてしまう。

このあたりは、屠戮玄武の洞窟で綿綿みぇんみぇんをかばった魏無羨と重なる。(魔道祖師2巻‐P306)

更に、令狐冲は世に流れる評判よりも相手の本質を見抜くことに長けており、色魔と呼ばれている田伯光が、実は義理難く儀を重んじることを知り、田兄弟と呼ぶまでに友好を結んでいる。田伯光は令狐冲に「負けたら儀林の弟子になれ」といわれた約束を忠実に守るのだ。

ここは言うまでもなく温寧との関係を彷彿とさせる。(魔道祖師3巻‐P28)

田伯光との戦いで重傷を負った令狐冲は覆面の老婆に助けられる。彼女は秘伝の薬草で看病し、更には琴で清心曲を奏で彼を介抱するのである。
回復した令狐冲は『笑傲江湖』が譜面であることを証明するため、彼女に譜面を演奏してほしいと頼み込むのだった。

この老婆、実は若く美しい剣士で、邪教派、日月神教の元宗主の娘、任盈盈じんえいえいである。
日月神教は最強の武人、東方不敗とうほうふはいによって元宗主が簒奪され、父を慕う門派の師弟を連れて洛陽の地に潜伏していたのである。

邪教であろうが、命の恩人にかわりはない、令狐冲はこの恩義必ず還すと誓うのだ。

この流れは、窮奇道で温情たちを助け出した魏無羨の心情を思い起こさせる。(魔道祖師3巻‐P218)


重なるシチュエーション


令狐冲は謹慎のために閉じ籠った洞窟の壁に邪教の秘儀が刻まれているのを偶然発見し、習得してゆく。
相手の剣術の勢いを取り込み、のらりくらりと交わしながら奥の弱点を突く「独孤九剣」。
内功を吸いとり、力を封じ込める「吸星大法」。
先人が残した奥義を類い稀なる聡明さで身につけ、平凡だった剣術はみるみる腕をあげてゆく。

この様子は、魔道祖師の原作には書かれていないが、魏無羨が江澄と再会したときに口にした「俺はある場所で謎の洞窟を見つけ、その中には謎の傑人が残した秘伝書があったって言ったら、おまえ信じるか?」という台詞から、魏無羨が令狐冲の様に伏魔洞で魔教の術を習得したのだろうと想像できて心躍るのである。(魔道祖師3巻‐P72)


物語も佳境を迎えた後半、正派五派の剣士達が邪教集団に嵌められ、洞窟で吊り下げられて喚くシーンは、第2の乱葬嵩殲滅戦で、金凌と濫景儀たちが吊るされてケンカするシーンである。(魔道祖師3巻‐P128)

華山派の総帥岳不羣は「紫霞功」という気功を使うが、紫の気を放つ様は、江澄の紫電のイメージに近い

尼僧の儀琳が属する恒山派のある山は静謐で、あたかも姑蘇藍氏の雲沈不知処のそれであり、彼女たちの修行は専ら戒律を重んじる藍氏と同じなのだ。儀林の姉弟子の儀和と儀清は取り分け、藍景儀と藍思追というところか。

金庸ワールドを読み解く

きわめつき武侠小説指南~金庸ワールドを読み解く~


武侠を知るには先ずは、この一冊‼️

徳間書店 1998年 刊行

香港の新聞社で働いていた金庸氏は、紙面を埋めるために小説を書き始めた。1960年代中国は大きな政治的転換期を迎えていて、苦しい生活に人民も喘いでいた。中国の文化大革命における権力闘争が凄まじかった時代、相手を陥れるためなら手段を選ばない人間の汚らわしさを真のあたりにした金庸氏は強い反感を覚えたという。しかしそれは、その時代に限らず古今の歴史の中に綿々と繰り返されてきた事実でもあった。彼の小説の中には自ずとそんな政治的な抗争や人間くささなどが反映され、当時の読者の心をわしづかみにしたのだろう。『秘曲 笑傲江湖』の登場人物はどれも政治的な人物だと金庸氏はあとがきの中で語っている。
新聞に掲載された小説の力で社会に疑問を投げ掛けることは金庸氏のライフワークとなって行く。

金庸ワールドを日本に広めたいと翻訳を買ってでた岡崎由美氏の奔走するエピソードや、独自の切り口で任侠小説の世界に新しい風を送り込んだ馳氏が絶賛する金庸ワールドの見所が満載!ワクワクする内容が目白押し‼️

金庸を読むなら手元に置きたい一冊‼️

そんな中から、ここだけは先ずは押さえたい項目をピックアップ😄


武侠小説の世界観  土屋文子 (P120)

武侠と言っても、ピンとこなかった初心者のための用語解説

【武侠とは】
そもそも「侠」とは本来、己の信条と正義のために、体を張って他人を救うという精神のありかたで、そこに手段として「武」が結びついたのが「武侠」である。したがって厳密にいえば、肉体の「武」と精神の「侠」を兼ね備えていることが必須条件になる。

【江湖とは】
武侠と言う幻想の中に存在する社会。作中では、多くの正派や邪派の勢力が天下統一ならぬ、「江湖統一」をめざして激しい攻防戦を繰り広げる。

【門派】
武林を構成する各流派。
仏教の「少林派」と道教の「武当派」をはじめ青城・峨媚・崑崙・崋山など五大門派で形成されている。

【名門正派】
江湖の那珂において、正義を保守することが定義の名門。
それにたいして「邪門歪道」「旁門左道」と呼ばれるものは、たいてい新興の怪しげな宗教結社などであることが多い。

【魔教】
非合法な宗教集団が門派を提唱すれば江湖の世界では「魔教」として門派のひとつとなる。日月神教などがそれ。

【先ずは内功ありき】
内功とは「気功」である。先ずは内功を修練する事が基本で武力はその次となる。
気功を充実させることで経脈を巡らせ、その内力が放射することで相手へのダメージを与えたり、逆に弱った相手に内力を送り込んで介抱する事も可能だ。
この力は魔道祖師では、金丹から発するとされている。
笑傲江湖」では、華山派の岳不羣は紫の気を放ち「紫霞功」という術を使うが、これは江澄の「紫電」に応用されている

ここにあげたのはほんの一部にすぎないが、この一冊を読めば、武侠の中に常識とされている数々の摩訶不思議な呪術や剣術が、なるほどなるほどと納得がいって、さらにはもっと応用できるのではないか?と想像力を掻き立てること間違いなしなのである。
ぜひ、おてもとにこれを置いて、金庸小説を堪能していただきたい。




  

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