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須恵器・土器を愉しむ【観覧メモ】愛知県陶磁美術館「企画展 日本陶磁の源 陶邑窯(スエムラヨウ)」
開催期間2021年1月9日から3月21日。観覧日3月上旬。前回「YAYOI展」に続く須恵器の特集。「陶磁」の美術館として大丈夫なのか心配になるが、須恵器ファンとしては遠路訪ねる価値のあるもの。「遠路」とは、東京-名古屋のことではない。最寄り駅-美術館の徒歩距離のことだ。
前回はリニモ「陶磁資料館南」駅から徒歩で来た。それでも途中不安になるアプローチと距離があった。今回は、瀬戸市経由できたので路線検索すると愛知環状鉄道「瀬戸口」と出た。徒歩38分。歩いてもいいし、タクシーでもいいかもと予定。地図を見ても歩けない距離ではなさそうだ。
しかし、実際の高低差はかなりあった。地図は国土地理院で確かめた方が良い。そもそも瀬戸口駅に待ちのタクシーはいなかった。
本館にたどり着く頃には、入館時の体温検査が心配なほどになっていた。
さて、展示である。本展の展示概要は美術館Webサイトを見ていただくとして、大きな特徴は日本陶磁史研究家の本多静雄氏のコレクションを核にした構成になっていること。そのため、博物館の須恵器展示のような「出土品資料」を中心にした陶片や窯の中でへたれたものとは異なり「良い器」として鑑賞的魅力も備えた須恵器が多く展示されている。
展示も端々が工夫され、基本テーマである猿投と陶邑のもの作りの違い、時代変化、目的変化など、さまざまな視点の「比較」が明確な鑑賞ポイント解説と合わせて展示されている。須恵器には官製の規格工業品として「パッと見同じ」という第一印象があるかと思うが、その大枠の中での「違い」をこれだけの量で比較できることで須恵器を見る、愉しむ目が徐々に解像度を増していく。そのため、足はなかなか進まず、観覧時間は予想以上に多くなる。
展示入口は、縄文、弥生、土師器、須恵器の「壺」が並ぶ。この段階では、やはり縄文が目をひく。弥生の洗練も美しい。土師器の素朴さは現代人にも分かりやすい。さて、須恵器って何だっけ? スタートの敷居はとことん低い。
まずは高温の穴窯による焼成技術の流れから「同じ」を確認する、朝鮮半島三国時代の陶質土器の紹介から入る。百済。いや、むしろ違う印象。
そして伽耶地域。ここでの表記は「加耶」になっていた。
装飾須恵器についているような、小さな坩(かん)のような小壺。
そして新羅。
さらに翻って陶質土器の源流として中国の灰陶器等も紹介。そもそも須恵器は縄文や弥生とは別の流れであることをここまででしっかり意識する構成。
その上であらためて伽耶(左)と陶邑窯の須恵器の同じサイズの広口壺を並べて展示。轆轤を使った規格デザイン、波状文、緊張感のある口の作りなど「同じ」技術の連続性を確認。
そしてここからが怒涛の須恵器展示である。多様な器種、時代変化、トレンドの比較。また、あちこちの博物館で須恵器を見ていると、あれとこれはなぜ違う? と何となく疑問に思っていたことが、明確な理由と説明でパネル展示されていて、「それ、聞きたかったやつ」という満足度も高い展示になっている。パネルは撮影禁止との注意書きがあった。
個人的には以前から気になっていた「須恵器のタコツボ」も1コーナーが特設され、須恵器技術の広がりとして紹介されていたのがうれしい。
泉に瓦と書いて「はそう」。個人的に、いちばん好きな種器。2枚目の太い頸に波状文がきっちり入っているタイプがとくに良い。
ていへい。
へいへい。
蓋坏(ふたつき)とその変遷。
そしてここからが圧巻なのが、長頸瓶(ちょうけいへい)の展示。これもタイプやトレンドの確認なのだが、これだけ美しい長頸瓶が数多く並ぶ展示は始めて見た。
頸の短い短頸壺。「壺」と「瓶」の違いもしっかりパネル解説されている。
ここからが「第二展示」の猿投と陶邑窯の「違い」。ここは外光の自然光のもとで器を鑑賞できるのも魅力。釉薬の施釉、無釉の違いがよくわかる。
「耳」の違い。そこまで比べる。
さあ、ここまでですでに2時間が経過。しかし館内には「常設展」として日本と海外の陶磁器の歴史。さらに愛知県のやきものを紹介する南館。企画展示を行う西館。須恵器窯の実物が保存されている施設などがある。1度にすべてを見ようとすれば、終日の時間と水と食料と耐力が必要だ。幸いなことに、前回YAYOI展でそこは克服済みなので、ピンポイントに須恵器のみを復習する。
常設展には、美術館の自慢の所蔵品がおしみなく並ぶ。ここから何時間必要なのかと途方にくれる規模である。
そして写真左の南館1階には、今回の須恵器展の核となるコレクションの本多静雄氏寄贈の浄瓶。2階には縄文からの愛知県の出土品の数々。右の西館では「狛犬」の企画展。こちらもそれだけで数十分は必要な見応え。
今回の展示には図録は編纂されていないが、受け付け時に16ページのパンフレットが配布されていた。企画概要と展示構成の他、パネル説明されていた鑑賞ポイントがほどよく整理されて事後の復習にも役立つ良編集な内容。これが入手できただけでも行ったかいはあった。
そして閉館時間の案内が流れ、帰路はリニモの駅から名古屋駅へ。
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![塩澤雄二(編集・ライター・ブックライター)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/8532366/profile_e708e3ade4bad6743be4bf0c204b8030.jpg?width=600&crop=1:1,smart)