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いのちの削ぎ落とし

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短編、掌編小説など。
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#コラム

掌編「カッシアリタ」 ふたりだけの最果て

掌編「カッシアリタ」 ふたりだけの最果て

※この記事は投げ銭制です。全文読めます。
※これまでの話をマガジンにまとめました。よろしければあわせてどうぞ。

 ラブホテル、行きたい。
 あたしがはしゃいだ声をあげると、男は、はあ、と目と口でみっつの丸を作った。
 その日、男は仕事から帰ってくると、車いすの背もたれにかけていたリュックから茶封筒を取り出した。なにそれ。たずねると、夏の賞与が出たんだよ、と男は封筒をひらつかせた。
 まあたいした

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掌編「カッシアリタ」 ルチア

掌編「カッシアリタ」 ルチア

※本記事は投げ銭制です。全文読めます。

前のお話しです。第4話掲載にあたり、タイトル含め多少改稿しました。一話完結ですのでそれぞれで読めます。よかったら合わせてどうぞ。

 あ、きた、きたよ。
 リタはそっと、おれの耳にささやいた。
 ぼろアパートの玄関先で、おれとリタは昼間から車いすを並べ、缶ビールをあおっていた。
 梅雨の最中。連日降っていた雨はあがっていたが、手でしぼったら水滴がしたたるよ

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掌編「カッシアリタ」 胸

掌編「カッシアリタ」 胸

※投げ銭制度ですので、記事は全文読めます。

第一話は、以下のリンクです。

 まじかよ。
 ぼろアパートの玄関を開けた時、思わずその言葉が口を突いて出た。
 リタが全裸のまま、大の字になって寝ていたのだ。Tシャツやブラジャー、ぼろぼろのジーンズ、ゴムの伸びたショーツ、そして紙おむつが、部屋のなかに脱ぎ散らかされている。クッションがあるというのに、室内用車いすのフットレストを枕にしているのに思わず

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掌編「名前をつけよう」

「わー、かわいー」

梱包をといた車いすをみるなり、千春ははしゃいだ声をあげた。

三ヶ月前から、なじみの補装具業者に頼んでいた彼女の新しい車いすがようやく届けられた。桃みたいなピンクのフレーム。ぴしっとした黒い背もたれや肘掛け。きらきらのスポーク。溝がくっきりとしたタイヤ。

「やっぱ新しいのはちがうよな」

ぼくもしげしげと眺めてから、隣にある自分の車いすをみた。もうメタリックのブルーのペイン

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掌編「カッシアリタ」 リタ

掌編「カッシアリタ」 リタ

 尿漏れシート、敷かないとなあ。
 汗ばんだユニクロのTシャツを脱いでいると、リタがけだるい様子で押し入れを開けた。古雑誌や掃除機、色あせたカラーボックスが雑然と押し込まれている。
 そのなかに、寝たきりの年寄りが使うような、尿漏れシートのパックがある。その脇には、紙おむつのパックも斜めに突っ込まれている。
 リタは尿漏れシートを二枚引き抜き、おれに放り投げた。薄みどり色のそれを広げ、部屋のなかに

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掌編「あなたがそばにいてほしい」

昼下がりの公園に着くと、子どもたちの歓声が聞こえてきた。

手前の広場には、サッカーボールを蹴りあっている男の子たちがいる。バドミントンに興じている若い男女もいる。ピンクのヘルメットをかぶった女の子が、自転車で地面に座り込んだ父親のまわりをぐるぐるまわっている。視線をうつすと、あずまやの屋根の下では、近所のおばあさんたちがおしゃべりしている。

そんな広場を囲む遊歩道を、わたしたちはのんびり歩いた

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ある街の雑文綴り

ある街の雑文綴り

彼は色のうすい男だった。

無愛想で無口で、表情も乏しかった。道行くひとに挨拶されても、ほんのわずか頭を下げるのみ。

一応生きていくための仕事にはついているが、与えられた雑務をやはり無表情でこなすのみ。昼休みも、皆が飯と共に寛ぐ輪からはずれてただひとり、冷たく埃の浮いた長テーブルの端で、もそもそと飯を口に運ぶだけだった。

仕事が終わる時間が来ると誰よりも先に机を片付け、「お疲れ様でした」も言わ

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彼女の一息 #ひかむろ賞愛の漣

彼女の一息 #ひかむろ賞愛の漣

「こないだ、友達とバス旅行してきたんだよ。はい、これおみやげ」

 先日、彼女はふらりと、すぐ近所に住む長男夫婦の家に寄った。渡したのは仙台銘菓の萩の月だった。息子たちはコーヒーのお供に食べながら、彼女のみやげ話を聞いていた。

 こんなふうに用事がなくても、彼女はよく長男夫婦の住まいに散歩がてら遊びにきて、一息つきに行く。コーヒーや紅茶を飲みながら、他愛ない話をする。最近は買いたてのスマートフォ

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smash!

 「そっか、そういう人なんだ。……ごめん。そういうのって、やっぱりあたしだめ』
 「ゆき」からメールはそれだけだった。おれはため息もつかず、スマートフォンのクリアボタンを押し、メールを削除した。メールは一瞬できれいさっぱりなくなり、着信したことさえも嘘のようだ。すぐに「ゆき」のアドレスも消す。最近はこういうメールがきたら、すぐ消すようにしている。とっておいても無意味なものだ。
 「ゆき」はマッチン

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短編小説「ゆなさん」 あとがき

短編小説「ゆなさん」 あとがき

 前回掲載した作品『ゆなさん』をお読みいただきました皆さま、本当にありがとうございました。

 また現在、体調面からコメントやり取りを控えているのですが、それにも関わらずお言葉を寄せてくださった方々にも、心より御礼申し上げます。

 ふだん作品のあとがきは書かないのですが(単に面倒臭がりなだけなんですが)、この作品については少しだけ書かせていただきます。

 この作品を書きはじめた時、主人公の女性

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短編「ゆらぐ夜」

短編「ゆらぐ夜」

 テーブルにうずくまっていた私は、はっと目を覚ました。意識不明から回復したかのように。
 あわてて顔をこすった。手の平がかさついていて、頬がけずられた。時計をみた。午後十時。テーブルに並んだ夕食は、新聞紙の下でとっくに冷めていた。
 私は、共に暮らす彼の帰りを待っていた。
 小さなデザイン会社に勤める彼は、多忙な日々を送っていた。二月に入ったここ半月は十時に帰れれば早い方で、日付が変わる頃に帰宅し

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宝物

 女の子の両脚が動かなくなって、車いすに乗るようになったばかりの、ある秋の日。
 女の子はお母さんに車いすを押してもらい、病院の外にお散歩に出かけた。病院からお出かけするのは、脚が動かなくなってからはじめてのことだった。
 看護師長さんから「おさんぽ、いいねえ」と声をかけられた。女の子は照れ、赤い野球帽をかぶりなおした。野球帽はお兄ちゃんが今日の散歩のため「かしてあげて!」とお母さんにあずけたもの

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小説「細い光」

小説「細い光」

 土曜の朝、私は体の痛みに目をさました。

 左半身が布団に沈みこみ、頬にふれると枕の縫い目がついていた。昨夜床についた時も同じ姿勢だった。どうやら一晩中寝返りも打たずに眠っていたようだ。ここ数日、同じような寝覚めをむかえていた。こちらを向いていなければならないと、無意識に思っているのだろうか。

 目の前には、美晴の寝顔があった。

 あおむけになり、軽くこちらに首を曲げて眠っていた。額に汗がう

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掌編「しんしんと雪が降る」

掌編「しんしんと雪が降る」

 九州からはるばる、私の住む南東北の街で暮らしはじめた友人の女性から聞いた話をもとに書いてみました。
 季節はずれですが、急に暑くなったこの時期に少しでも涼を感じられたら幸いです。

 ―――――――

 雪って、しんしんと降るんだって。

 はじめてそのことを聞いたのは、彼女が幼稚園の時。大好きだったちづるせんせいからだった。

 しんしんと降る雪って、どんななんだろう。

 彼女はそれから、し

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