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篭田 雪江(かごた ゆきえ)
2019年6月9日 19:50
土曜の朝、私は体の痛みに目をさました。 左半身が布団に沈みこみ、頬にふれると枕の縫い目がついていた。昨夜床についた時も同じ姿勢だった。どうやら一晩中寝返りも打たずに眠っていたようだ。ここ数日、同じような寝覚めをむかえていた。こちらを向いていなければならないと、無意識に思っているのだろうか。 目の前には、美晴の寝顔があった。 あおむけになり、軽くこちらに首を曲げて眠っていた。額に汗がう
2019年5月6日 16:09
ふたりの車いすが、寄り添っている。 今日も、並んで街をこいでいた。歩道がせまいときは咲希(さき)が直幸(なおゆき)の後ろに電車ごっこのようにぴたりとついていく。はみ出て進路のじゃまになる自転車は、そしらぬ顔でたおしながら。 路地裏に、照れくさそうにドアを開けている小さな古着屋を咲希が見つけた。乗っている車いすにブレーキをかけた。店の前に飾られたTシャツに、子犬をなでるようにふれた。「
2019年6月1日 21:02
あれ、これって……。 玄関先の掃除を終えてほうきを物置にかたづけていると、シートがかけられたそれがみえた。 シートをめくると、車いすがのぞいた。 私は外にひっぱりだし、広げようとした。しかしさびついていてなかなか広がらない。体重をかけてシート部分を押し込んだ。お年寄りが乗る自転車のような甲高い音がして、ようやく車いすは広がった。「なにしてんの」 後ろからあくびまじりの声がした。妹がや
2019年5月16日 15:17
「今日、誕生日なんですね」 CT検査をおえて身支度をととのえていると、男性技師がカルテをみながら言った。 おれはCT室の壁にさげられたカレンダーに目をやった。日付の下に製薬会社のロゴだけが書かれた、愛想のないものだ。今日の日付は十二月二十七日、たしかに誕生日だ。「しかも記念すべき三十歳の誕生日ですね。先輩として歓迎しますよ」 技師はいたずらっぽく言った。浅黒い肌に白い歯を持った健康の見本の