茶人には “イケズ” が多い が、“懲りない奴”も……
厳しくて優しくて美人のおっしょさんが以前、私に言った。
「茶人は神経質で優しくて。でも、ちょっと意地悪ですよね」
「はい」
と肯定してしまってから「しまった」と、うろたえた。その後の反応は、なかったので、命拾い。
昨日はお稽古の日でした。とんでもない失態をしでかしてしまいました。主客の方に主菓子をお出しして戻るときに、袴の裾を踏ん付けてしまい、腰の所の紐が切れて、お尻丸出しになって茶道口に戻って行きました。水屋に着いて紐が垂れているを見て、びっくり! しかも、主菓子を出した主客の方は妹弟子。20歳台半ばの可愛い女性。幸いにも袴の下は着物でしたので、しかもお尻をからげてなかったので大丈夫だったと思うのですが。仕方なく、袴を脱ぎ捨てて点前座へ。さっそくおっしょさんが、
「蜻蛉さん、袴はどうなさったの?」
「いえ、その、あの(しどろもどろで)、先ほど袴の裾を踏ん付けて紐が取れてしまったので、脱げちゃいまして……」
「それは大変、ですね」
全然、大変な様子ではない。平然としているおっしょさんでした。さらに、点前座に座って柄杓を持ち上げていると、
「袴がないと、なんだか落ち着かないでしょ」
「はぁ、確かに落ち着きません。やりにくいです」
以前、おっしょさんに袴について注意されたことがある。その日は、そんなマナーがあるなんて知らなくて、着流しでお稽古に出席した。
「蜻蛉さん。袴はどうなさったんですか?」
「今日は、これでいいかなと思いまして」
「まだ、茶人として位が下の方は、教えてくださる方に対して敬意を表す意味で、袴を着けなくてはなりません。位が上になったら、着流しでも構いませんけれども」
「そうでしたか。それは存じ上げませんでした。以後、気を付けます」
と、きつく注意されたことがある。そのことがあるので、緊張しながら、着流し姿でおっしょさんの前に出ての、お点前となりました。なお一層緊張! 相変わらず色々と注意を受けて、おかげでヒア汗で着物がびっしょりになってしまいました。それでも大したご指摘も「うんっ、もうーっ」の感嘆のお声もないまま、何とかその日のお稽古を終えることができました。
そして、姉弟子や妹弟子、兄弟子もそろっての帰りのあいさつの時、おっしょさんに、ついに切り出しました。新規事業の件を。
「先生へお仕事の依頼をする場合は、窓口はどちらになるのでしょうか」
「あら、どんなお話なのかしら」
「うちの会社は全国展開している会社なのですが。今度、私の企画で高級旅館を作りたいと思いまして。それで今現在、会社の幹部に新規事業計画書を渡してあります。もし、新規事業計画が採用になりましたら、先生に、トータルデザイナーとして、ご参加いただき、色々とご意見をお聞きしたいと思っています」
「それでしたら、いつもの教室のメアドに御用件を書いて送っていただければ、それで構いません」
「かしこまりました。ありがとうございます」
「何かご質問はございませんか、と皆さんにお聞きしたのに、まあ…ほっほっほっ」
と来たもんだ。いやぁなんで、こんな“イケズ”なおっしょさんと仕事をしようなんて思いついたんだろう。私は、なんと“懲りない男”なのだろうかと、自暴自棄になりかけた。