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茶道は練習ではなく、お稽古です

 2021年、ショパンコンクールの一位、二位、四位の受賞者の共通の友人という女性と話が出来た。一位はカナダ人、二位、四位は日本人の男女である。
   一位は、ブルース・シャンユー・リュウという中国系カナダ人である。特筆すべきはブルース以外は、3歳からピアノを習っていた。しかし一位のブルースは、遅いと言われる10歳からピアノを始めた。それなのに名だたるプレイヤーを抑えて一位に輝いた。友人はブルースに、
「どうして上手くなれたの?」
 と聞いた。すると彼は、
「ピアノを弾くことが好きだし、楽しい」
 と答えたそうだ。

 その女性は2位の反田恭平さんと4位の小林愛美さんとは中学、高校と同じ学校だった。彼女自身も国内のピアノコンクールでは常に上位に入っていた。しかし、彼女は、
「中学時代に、彼ら彼女らにはかなわないとピアノで頂点を目指すことを断念しました」
 と語っていた。
「でも、二人と最近話をした時、国内の選考基準と海外の選考基準は違う。あなたも国内では今一つでも、海外だったら私たちを超えたかも知れない」
 と語っていたという。そういうことはあるかも知れない。

 クラシック音楽ということでは私自身最近、シンガポールのバイオリニストのクロエ・チュアに惚れ込んでいる。それも、今から5年前の彼女が12才の時の演奏する姿が気に入っているという話を彼女にした。その時私は、
「あくまでも12才の時のクロエ・チュアの演奏が好きなんです。無心で弾いている彼女の姿が、すごく私の心を打ちました」
 と彼女に話した。すると彼女は、
「それはあると思います。上手くなってくると演奏に欲が出てきて、それが演奏を邪魔することが有ります。ですから、私も常に無心でピアノを弾くようにしていました」
 と彼女は語った。
 その時、茶道の教室での話を思い出した。若い男性の先生から、
「お点前の時の緊張は、お客に伝わります。せっかくのおもてなしでお点前をしているのに、返ってお客に緊張感を与えてしまう。本来、寛いでいただくためのものなのに」
 という話を思い出した。
 ピアノの演奏でも、そういうことがあるんだと気付かせていただいた。
 そう思って、もう一度、1位のブルース・リュウと2位の反田さん、そして4位の小林さんの演奏をYouTubeで聞き返してみた。すると茶道で言われた言葉が、何と無く感じられた。
 どんな世界でも頂点にいる人たちは、ほんのわずかの差で順位が決まる。そのわずかの差は、気付く人と気付かない人が世の中にいるから、順位が決まる。
 茶道のお稽古は、そういう違いを感じることができるようにすることがお稽古なんだと思うし、つまり「審美眼を養う」ことなんだろうと思った。
 裏千家の業躰であられる奈良宗久さんの言葉を思い出した。
「茶道は練習ではなく、お稽古です。生涯続けるものです」
 そういう言葉だったと思う。その意味がなんとなくわかった気がした。

 


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