植物の多くが、菌と一緒に生きているって知っていますか?-植物と菌根菌の関係
突然ですが、陸上の植物は、菌と一緒に生きているって、知っていますか?筆者は、今回のゲストである下野先生に教えていただくまで全く知らずに生きてきたので、すっごく驚いたんですよね。
今回のかがやくサイエンスは、東邦大学理学部生物学科 植物生態学研究室の下野綾子先生をゲストにお迎えしました。下野先生は、高山帯の植生変化を捉えたり、全国的に減少している里山の草原で、植物の繁殖や発芽の特性を調べたり、植物と密接な関係のある菌類などを調べたりしています。
「生物学の中でも、やっぱり動くから動物の方が関心がある学生さんが多くて、植物は人気がないんですよね……」ともらす場面もありましたが、動かないから面白くないなんてことはない、奥が深い世界なのだと知りました。(取材・文 荒川ゆうこ)
植物と菌根菌の普遍的な共生
下野:生物の間で、もっとも一般的に見られる共生が植物と菌根菌です。30万種以上とされている植物の8‐9割が菌根菌と呼ばれる菌類と共生しています。
ーー先生、キンコンキンって何ですか?
下野:植物の根に住み、栄養などを供給している菌類のことです。植物の根には、水や養分を土から吸収する役割がありますよね。このとき、菌根菌は栄養の吸収をサポートしています。
植物はもともと、水に中にいる藻類の仲間から進化してきました。水の中には栄養が溶け込んでいるので栄養獲得がしやすいのですが、植物の祖先が上陸したときは、土壌がなく、栄養はほとんどなかったと考えられます。現在は土壌がありますが、水の中と違って土壌の中の栄養は不均一に存在しているし、栄養の種類によっては土壌と吸着するものもあります。
どちらにしても植物にとっては、栄養を取り入れにくい状態です。でもそこに、共生している菌根菌が関わると、効率的に栄養獲得ができるのです。
ーー菌根菌がいると栄養を吸収しやすくなるのはなぜですか?
下野:菌根菌の菌糸は植物の根より細く、土の中に張りめぐらされているので、根よりも栄養分にアクセスしやすいのです。その菌糸を通じて、根に栄養が運ばれます。
植物と菌根菌の共生は、植物の上陸とともに始まったとされています。植物が上陸に成功したのは、菌根菌と共生できたからと言えるかもしれません。そういう意味でも、菌根菌を無視して植物を語ることはできません。
ーーだから先生は、菌根菌に着目しているんですね。共生する影響は、ほかにもありますか?
植物はさまざまな菌類と共生している
下野:菌根菌以外にも、植物はいろいろな生物と共生しています。例えば、花の蜜の中には酵母がいます。酵母というと、パン屋お酒で使われているものを思い浮かべる方もいるかもしれませんが、それとは違う種類のものです。
酵母は、花蜜の組成を変えたり、匂いを変えたりすることで、蜜を集めに来るハチを誘引することがあります。動けない植物にとって、多くの場合、訪花する昆虫に花粉を運んでもらう必要があるのです。訪花昆虫は蜜や花粉を餌として利用するので、お互いに利益のある相利共生の関係があります。
これまでよく知られていた花とハチの関係には、実は酵母が影響を及ぼしている可能性があるのです。今までは認識されていなかった部分にも菌類が関与しているのです。
ーーそういう、見えない関係が分かるのって興味深いですね。
下野:そうですね。技術が進歩したので、私は植物生態学が専門で、菌類を形態に基いて分類する知識には乏しいのですが、私のように分野外の人間でも気軽に菌類を調べられるようになりました。
ーー見た目以外で、どうやって種類を特定しているんですか。
下野:DNAの塩基配列の情報を使います。採集した菌を実験室に持ち帰って塩基配列を調べることで、そこにいる菌の種類を推定することができます。
でも本当は、現場で実物を見て、「この植物にいるのはどの菌だ」というように分かったほうが、フィールド生態学の面白さは感じられるでしょうね。現在、ポータブルの小型DNA解析装置の開発も進んでいますので、フィールドで塩基配列を知れる時代になると思います。
ーー目にしているものに実はこんな事実が隠れていたなんて面白いから、見えない部分にまで目を向けられる人が増えてほしいですね。
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