見出し画像

「自己犠牲ではなく相乗効果で、つながる関係性を」石沢久和さんの古民家再興(帰る旅 地域クリエイターズCAMP コースC主催)

帰る旅は、現地で帰る旅をつくり出そうと立ち上がった「帰る旅研究会」に所属する運営メンバーの力で成り立っています。
研究会のメンバーは、地元にUターンで戻った方、移住・2拠点居住して働き暮らすことになった方など様々。研究会メンバーを通じて、参加する皆さんが地域との予測不可能な出会いを生み出し、「帰る場所」を見つけることに繋がればと思っています。
コロナ禍を経て、”働き方・生き方”の選択肢はますます多様になりました。多くの人たちは、現状の自分自身の選択について悩み迷っていると思います。
「帰る旅」で新たな出会いや気づきがみつかりますように。

帰る旅研究会メンバーを紹介する連載2回目は、新潟県津南町の役場職員、観光協会事務局長でありながら、自らの資金で津南町秋山郷の限界集落で古民家再興プロジェクトをスタートした石沢久和(いしざわひさかず)さんが登場です。

↓石沢さん主催の「帰る旅 地域クリエイターズCAMP」(コースC)はこちら


interview

町役場の職員だからこそ感じた、秋山郷集落の課題感
古民家を地域交流拠点に、つながる集落へ
ー 石沢久和さん ー

津南町役場職員の石沢さん。観光地域づくりに携わる部署で働きながら、2023年、築200年の秋山郷・見倉集落の一軒の古民家を、自らの資金で改修し地域の交流拠点として開発する新たな挑戦を始めました。
津南町行政マンの視点で感じた課題感、そして自ら動き出したきっかけ、この先のビジョンについて聞きました。


誰かの役に立っている実感が持てずにいた

―石沢さんが津南町役場で働くことになった経緯を教えてください
津南町で生まれて、大学卒業後は都内の大手墓石屋へ就職しました。そこで美術販売や工事関係の仕事をしながら、都会での生活に不満はなかったのですが、一方で生きがいのリアリティというか、自分の仕事が、誰かの役に立っている実感がいまひとつ持てずにいました。そんな時に、地方新聞で同級生が地元で活躍している記事を見て帰郷を決意。役場へUターン就職しました。役場では観光、林業、福祉、広域事務、住民係、文化財など様々な部署を渡り歩きながら、地域活性化を考えてきましたが、『地域経営の必要性』『関係人口の可能性』そして『行政の限界』を感じるようになりました。

自らの資金で地域の交流拠点の開発をはじめた石沢さん

10年、50年、100年経っても暮らしが続く集落を未来へ繋ぐ

―行政マンの立場だからこそ感じた葛藤があったんですね。
そうですね。人口減少は地域経済の規模縮小に直結します。その課題を抱えながら地域を存続させる方法を考えると、地域経営には戦略と戦術が必須だし、特に秋山郷のような限界集落は、減少した住民の自助努力だけでは非常に困難だと思います。地域外の応援団が必要、と痛感しています。
一方で行政は慢性的な財源不足や職員数の減少の中、限られたリソースを思い切った改革に注ぎ込みたいところですが、コンセンサスコストが高すぎて、ダイナミックには動けない状態でもある。このため市町村の行政施策だけで変革することは難しいと考えるようになっていました
かつて秘境ブームで大勢の観光客で賑わっていた津南町の秋山郷は、平成不況の中で観光客減少が止まらず、人口流出も相まって、地域力が著しく低下してしまいました。
私もかつては秋山郷復興の可能性を悲観的にみていたのですが、文化こそ観光資源と気づき、ここには多くの魅力が溢れている!と確信に変わりました。秋山郷13集落の一つ、見倉集落はわずか4軒の小集落ですが、全ての家屋が古民家です。そして最も秋山郷らしい昔ながらの生活様式が色濃く残る地区でもあります。この魅力的な地域の住民とどう関係性を作るかが課題でした。そんな折に、身寄りのなかった独居老人が亡くなり、空き家取り壊しの相談が役場の私のもとにきました。行政的な手立ては見出せず、個人的に見倉の地域づくりを行うため、空き家を個人で購入することにしました。

200年以上前から続く、山村の原風景が残る秋山郷・見倉集落

―それで自ら動いた、と。古民家の購入や計画はスムーズでしたか?
色々ありました。私が移住などの地域づくりで大切だと感じることは「誰のために地域づくりをするのか?」の観点です。自分たちがこの土地に住み続けている理由は、人により細かい理由は様々あると思いますが『現状の津南が好き』だから住んでいるはずです。
でも、変革した未来が現状の自分たちの生活をそのまま維持するとは限らないし、望ましい形になるとは限らない。どういうやり方でどこまで地域づくりを進めるかは、今住んでいる住民とのコンセンサスが必要です。
私が秋山郷の見倉集落で今回の空き家を購入したいと思ったときも、集落の皆さんに「これまでの静かな生活が賑やかなものに変わる可能性が高いですが、それでも良ければ空き家を購入します」と判断をお任せしました。そして了承が得られたので購入し、再興計画をスタートさせました。
見倉には、縄文や平安の遺跡があります。太古からこの地に人々は住み続けてきました。購入した空き家も、200年前の随筆家・鈴木牧之(すずきぼくし)が秋山郷を旅した時の著作に絵姿が残っています。私のミッションは、この築200年の家と見倉集落を200年後の未来に伝えていくことだと思っています。この空き家を拠点に限界集落の復興に取り組みたいと想いを膨らませていたとき、帰る旅研究会の活動を知り活動に加わることにしました。

石沢さんが購入した古民家、改修前の外観

自己犠牲ではなく相乗効果、秋山郷とつながる関係性を

ー地域外の応援団が必要、とのことですが、それはどんな人たち?
都会に住む人たちにとっても、各人が持つスキルを思う存分発揮できる場所として地方と関わりがもてるなら、サードプレイスとなるのでは?この交流が理想的な地域外の応援団のイメージです。都会では実現できないことをここで実現していく。都会から来た人が自己犠牲するわけでなく、互いにWIN-WINの相乗効果に。そんな未来になれば嬉しいですね。

―集落がつながることで生まれる未来、面白そうですね
 これからの計画は?

「帰る旅」のプロジェクトを通して、県内・県外の多くの人たちとのネットワークができてきました。関係人口を生むための知見も広がったと思います。古民家再興のファーストステップは、参加者が気軽に滞在し活動するための宿泊施設と交流スペース、そしてそれを維持するための仕組み(飲食店経営等)が必要だと思い、改築を始めています。昨年(2023年)から少しずつハード部分は改修してきましたが、まだまだ未完成です。また山村復興という視点からも、特産品の開発や農地の再開発、集落祭礼の復活など、皆さんのアイデアややってみたいことを取り入れていくことも考えてます。

現在も古民家の改修が進む、昨冬(2023年)には外装工事も着手

―都会に住みながらも秋山郷の地域づくりに参加できる機会に
 なりそうですね。

そうですね。地域外の方がこの秋山郷に来て、実際に住んでいる方と関わりながら、ぜひここの暮らしについても体感してみてほしいです。県外から秋山郷に移住した方々ともつなげていきたいですね。春夏秋冬の景色も見てほしいし、冬の除雪体験や、雪を活用した食糧確保の保存方法など、この土地ならではの生活文化もとても新鮮だと思います。もしここを気に入っていただけたら継続的に繋がっていただけると嬉しいですが、まずは最初の小さなきっかけとして、気軽に一度コースに参加してみてください。

↓石沢さん主催の帰る旅 地域クリエイターズCAMP(コースC)はこちら


古民家の再建を手掛ける大工の山田さんは見倉集落の出身
昨秋(2023年)には、参加者が手伝って外壁の塗装や家財道具の整理をみんなで協働した
共同作業の後は、一日の振り返り会を円座で
近くの集落に住む飯野さんご夫妻も、県外からの移住者

↓「帰る旅 地域クリエイターズCAMP」全コースはこちら


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?