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海外永住者が外国籍を取得する前に考えること

 日本のパスポートは世界で最も信頼され、192か国にビザなしで行くことができます。カナダやその他の国の日本人永住者で外国籍を取ろうとしている人もいるかと思いますが、外国籍を取得するということは、その最も価値のある日本のパスポートを手放すことになるので、よく考えてからのほうがよいでしょう。 


コロナ禍で日本の親に会うためにはビザが必要


 私がこの記事を書いている時点では、コロナ禍で日本は外国人を入国させないという措置を取っています。一時は日本の在留資格を持っている外国人でさえ入国させませんでした。私は日本国籍を保持していますが、今までこのような鎖国状態を経験したことがないため、カナダ国籍を取ってカナダのパスポートになっても、90日以内ならビザなしで日本に帰ることができると安易に考えていました。

 現在、外国籍を取った人は、日本の病気の親の見舞いに行ったり、日本で用事を済ませるためには日本のビザが必要です。そのビザを取るため、日本の「国籍喪失届」を出す必要があります。また、なぜ日本へ行く必要があるのか説明するため、例えば親の主治医からの手紙が必要だったりと、かなり複雑な手続きが必要です。 

パスポートを2つ使うことはできない


 生れながらの2重国籍者にはグレーな部分もありますが、成人してから外国籍を取った人は、自動的に日本国籍を放棄したことになるので、日本のパスポートが有効期限内でも使うことはできません。またパスポート更新の際に、外国籍を持っていないと嘘をつくことになります。

 私は2重国籍推進論者で、日本が2重国籍を認めてくれたら、どれだけ安心して海外で暮らしていけるだろうかと考えます。また、外国人と結婚した人は自動的にその国の国籍が与えられたり、仕事を得るには在住国の国籍が必要で仕方なく取ったという人がいることも知っています。しかし、現在日本が外国籍取得者に2つのパスポートを同時に使うことを禁止している以上、罰則があるにしろないにしろ、やはり隠れて日本のパスポートを使うことはお勧めしません。 

外国籍を取ることのメリットとデメリット


 何をするにもメリットとデメリットはあります。日本人がカナダ国籍を取得する場合で考えてみましょう。
 
メリット
PRカード:国籍を取るとカナダのPR(永住者)カードを5年ごとに更新しなくてよくなります。近年は手続きも楽になりましたが、歳を取ってカナダ国外へ出ることがなくなったら、私はもう更新しないと思います。また永住者は5年のうち2年以上カナダを離れることはできません。

選挙権:投票したり立候補することができます。カナダ国籍があると、忙しい人はなりたくないかもしれませんが、選ばれると陪審員になれます。
アメリカ入国:コロナのような有事以外、カナダ人はアメリカ入国はほぼフリーパス状態ですが、日本国籍の私は、アメリカ入国やトランジットのたびに、ESTAを更新したり、顔写真を撮ったり、指紋押捺などが面倒です。

安心感:カナダ国外でもし戦争やテロに巻き込まれたら、「カナダ政府は永住者も守ってくれるだろうか」という不安はいつもあります。私はカナダ人の子どもを育て、税金を納め、国に貢献してきましたが、しょせん外国人です。
 
デメリット
有事:コロナ禍のような有事の場合、日本入国が難しくなります。

医療:カナダは専門医に診てもらうまでに時間がかかることが多く、そこに不安があります。日本国籍があれば、急を要する時に日本で治療を受ける選択肢を残せます。

ビジネス:グローバル化に伴い、海外在住フリーランスの市場は国境をまたいでいくでしょう。日本のクライアントと仕事をする場合、日本の銀行口座を持っていると決済がスムーズです。外国籍になると、日本の銀行口座を保持できなかったり、日本からの送金が難しくなります。

選挙:日本の在外選挙で投票できなくなります。

本帰国:若い時は日本にはもう帰らないと考えていても、年齢を重ねると、老後は日本に帰りたいと考えが変わる人はたくさんいます。一旦日本国籍を離脱すると、歳がいってから国籍を再取得するのは手間とお金もかかります。

喪失感:これは人によるかもしれませんが、日本国籍を失うことで喪失感を持つ人もいるかもしれません。

 他にも、例えば闘病中の親の資産管理や、税金や投資面で、日本国籍がないことでの不都合があるかもしれません。 

親が存命中はよく考えよう


 私はカナダで、カナダ国籍を持っていないことでの大きな不都合を感じたことはありません。選挙権がないこと以外、求職時や行政サービスを受ける時も、カナダ国民とほぼ同等に扱われています。(有事にどうなるかわかりませんが。)

 日本は外国人に対して制限の多い国なので、外国籍を取ると、今回のコロナ鎖国のように、親の介護のためにすぐに日本に行けないという状況になるかもしれません。その時に、自分が制度上は外国人であることがネックになるかもしれません。

 親が生きている間は、日本国籍を手放す前に十分考える必要があるでしょう。


この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2022年5月号に寄稿 https://torja.ca/kaede-trilingual-27/

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