業務(パワハラ・退職勧奨)による休職を会社・産業医が『労働災害(業務上の疾病)』と扱わず『私傷病(業務外の疾病)』で処理する件について
前提(制度)
前提として、弊社の就業規則には以下の2つの傷病休暇・休職がある。
(就業規則上は、”従業員に配慮”しているのではないかと思う)
私傷病休暇(有給)/私傷病休職(無給)
対象:私傷病(※「私傷病」で検索したところ、『仕事以外の理由の怪我や病気』を指すのが一般的)
休職期間:3年以上の勤務社員は1年6カ月まで(復職出来ない場合は退職有)
休職期間中の手当:健康保険(健保組合)から賃金の6割(1つの疾病につき通算1年6カ月まで。転職しても前職までの取得期間と通算される。(※社会的治癒が認められる場合を除く))
公傷病休暇(有給)/公傷病休職(無給)
対象:業務上または通勤による傷病により出勤できない社員
公傷病休職の期間:労働基準法に従う(※労働基準法上、期限無し)
休職期間中の補償:国から賃金の8割(期限無し)
※参考:厚労省が出している『仕事が主な原因と認められるかどうかを判断する基準』に関するパンフレット 001168576.pdf (mhlw.go.jp)
実運用
休職時に会社から案内されるのは『私傷病休職』のサイトのみ。
就業規則上、『公傷病休暇・休職』について『事前に産業医または会社が指定する医師による公傷病であることが明らかとなる診断書を添えて人事課に願いでること』と記載されており、私は人事に公傷病を希望したが、産業医面談や指定医師の案内ではなく「労働災害として労働基準監督署に認定されたら休職開始時に遡って適用する規則である」と回答があった。(今現在も、私の休職は会社内では私傷病休職として処理されている)
労働災害を会社に申請するための社内サイトは、人事に再三尋ねて漸く案内されたほどであり、社員に全く周知されていない。(結局、私はこのサイトは使わずに自分で労働基準監督署に提出することにした)
産業医面談で、業務によるストレスでの体調悪化を伝えたが、産業医から就業禁止を命じられる際のやりとりも、(産業医)『〇〇(私)さんは、あとどれくらい休職出来る?』(保健師)『人事に確認したところ、(1年6カ月の私傷病休職のうち)残り〇月です』と、私傷病休職が前提となっている。
今回、PIPにより体調が悪化する中、私は、治療のためにPIPの一時中断を人事に頼んだが却下された。その際に、『PIPを受けられないのならば休職するように。PIPを受けることは業務命令である』と言われたため、『休職の場合、これは業務による悪化のため、休業補償の選択先として労災が該当と考える』と伝え、人事からは『承知した』と回答があった。にもかかわらず、いざ私が労災の申請をしたら『因果関係について医学的知見が必要であり会社では証明ができない』と言い、事業主証明を拒否し続けている。(産業医面談とは?)
本件について考えていること
これまた繰り返しになるが、うちの会社は外資系コンサル企業の中でもコンプライアンスを遵守し、従業員の職場環境の改善、働き方改革に取り組んでいると内外にアピールしている。
では、業務による精神的負荷で休職する従業員に対して、私傷病と公傷病、どのように勧めるのが適切だろうか。2つの制度の対象者(業務により疾病した従業員か、そうではないか)、期間(手当を貰える期間が定められているか、無期限か)等々を考えると、公傷病(=労災申請)ではないだろうか。
(また、私傷病の場合、転職しても同じ疾病(うつ病)であれば前職と通算されて1年6カ月までとなる。従って、私傷病休職を取得し、休職期間中に復職が認められずに退職になった場合、転職先が見つかっても、転職先でうつ病が再発した場合の手当は貰えない(※社会的治癒が認められる場合を除く)。うつ病は再発率が高いため、このリスクは小さくはないだろう)
公傷病は認定までに数か月がかかるため、まずはすぐに休職に入れる私傷病を……というのは適切な配慮だと思う。だがそれは、休職を希望する従業員を私傷病のみに導き、公傷病休職には触れもしない理由にはならない。私傷病の補償を受けた後に公傷病の認定をされた場合の補償の調整についても制度として整っている。私傷病に入った後に公傷病休職も申請できる方が従業員のメリットとなる。
業務上の疾病であっても労災として認められない場合はあるが、その場合には健保組合の方の補償を求められる制度となっている。やはり従業員の労災申請を案内しない理由にはならない。
では、なぜ、休職を希望する従業員に、私傷病休職のみ提示するのか。
端的に言えば、会社・産業医のメリットのためだろう。
以下にぱっと思いつくレベルのものを記載する。人事・産業医の業務に詳しい方であれば、もっと上げられると思う。
会社側の私傷病休職メリット
労災の認定は、あくまでも国からの保険・補償の支払い対象かの認定ではあるが、審査にあたり労基署から会社へ聞き取りや調査が入る。私傷病であれば労基署への対応工数も無くすことができ、何よりも社内でクローズできる。
会社に置いておきたくない社員を、私傷病期間の終了により退職とすることが可能となる。(恐らく解雇よりも法的なハードルは低い)
労災の認定がされた場合、その後の訴訟において安全配慮義務違反を問われやすくなる。私傷病休職でもその後に裁判を起こされる可能性はあるが、労災認定されているという状況は解消できる。
産業医側の私傷病休職メリット
会社への忖度
労基署からの聞き取り対応等の負荷軽減
労災となった場合、原因調査や再発防止の検討にあたり、医学的知見で会社に協力する必要があると思われるが、私傷病休職の場合は恐らくその負荷は軽減される。
少し古いが、労災認定における産業医の立ち位置について検索していて、シンポジウム『精神障害の労災認定に伴う諸問題とメンタルヘルス』(https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100030203.pdf)
の記事を読んだ。
この中で繰り返し出て来るのが、産業医は労使双方から独立した『公平』な立場というものだ。
であれば、1点目の『会社への忖度』はすべきではない。また、2,3は関係法令における産業医の位置付け上、職務上求められている対応であり『それが嫌だから』従業員に私傷病前提で対応するべきではないと思う。
私が『このまま休職に入ったら労災の方で申請をする』と上司に言った時、上司は『え?うつ病って労災になるの?』と言っていた。
彼の認識は、うちの会社の多くの社員の認識とそう変わらないだろう。
周知・案内されることもなく、きっかけがなければ自ら調べるタイミングもない。
そうして、本来であれば公傷病休職(労災)の申請が出来、また場合によっては認定されていたかもしれないのに、私傷病休職の期間(1年6カ月)が切れて退職になった社員もいたのではないだろうか。
会社にとっては、私はコンプライアンスや安全配慮の対象外なのだろう。(それは前回の記事で書いたとおりだ)
だが、産業医には、従業員に必要な治療期間を与えるという観点からも、私傷病休職ありきの対応は止めて欲しいと思う。