上品な読書マウントの取り方
どうせ本を読むなら、マウントを取りたい。これは読書家の本音だと思う。僕もそうだ。
しかしその反面「マウントを取る」という行為はダサい。「あ、こいつマウント取ろうとしているな‥」と悟られては、インテリ扱いされるどころか、頭でっかちの童貞のような扱いを受けることになる。
ならば、「俺この前『純粋理性批判』を読んだんだけどさぁ‥」と切り出すことは愚策だ。「自分からマウントを取らない」という姿勢でありながら、自然と読書自慢を成し遂げることこそが最高レベルのマウントになる。
悟りを開こうと思っているうちは悟りを開けない‥みたいなジレンマだ。どうすれば自然と読書自慢ができるだろうか?
(1)zoomで本棚を映す
例えばzoomで会議をするとき。この読書家にとって最高のチャンスは逃してはいけない。必ず難解な哲学書が配置された本棚の前で行おう。
ここで注意しなければならないのは、哲学書だけを並べた魅力の乏しい本棚を映してはならないことだ。そんな本棚は視界にすら入らない可能性が高い(当たり前だ、誰も哲学書の話なんてしたくないに決まっている)。
それを防ぐために『ONE PIECE』とか『鬼滅の刃』とか、誰しもが話題にしやすい本も隣に並べておこう。『ONE PIECE』が好きなら、『ONE PIECE』が並んだ本棚を見て反応しないわけにはいかない。その流れで、否が応でも哲学書が目に入る。その話題に触れようが触れまいが「哲学書を読んでいる人」という強烈な印象を植え付けることができるだろう。
漫画と並べることで別の効果もある。「僕は自慢するために難しい哲学書を並べているのではなく、少年漫画と同じように楽しむために読んでいるだけですよ〜」という暗黙のメッセージを発信することができるのだ。こうして、背伸びして哲学書を読むインテリ気取りの大学生のレベルを遥かに飛び越え、純粋な好奇心から知識を追い求めるソクラテスと同列に並ぶことができる。
(2)カバンの中をチラ見せする
本棚と同じ仕掛けは、カバンの中にも施しておこう。カバンの中には『呪術廻戦』の新刊と『論理哲学論考』をセットで入れておこう。そして職場では、本と漫画の端っこがギリギリ見えるくらいのところまで、自然にカバンの口を開けておくといい。中身を整理するフリをして、デスクにポンと載せておくという動作も、少しなら嫌味にはならないだろう。
(3)名言を引用する
日常会話の中で、名言を引用してみよう。「決断とは一つの狂気ですからねぇ」みたいな話をすれば、「どういうこと?」とか「確かになぁ‥」とか反応される。そのあとに「まぁ、これはキルケゴールの受け売りなんですけどねー(笑)」と照れながら反応しよう。自分独自の見解ではなく、あくまで自分は巨人の肩に乗ってるに過ぎないということを強調することで、謙遜しているという体裁を保ちながら、読書量を自慢できる。
(4)挫折体験を語る
「この前『精神現象学』を読もうとしたのですが、全く理解できなくて‥笑」と、挫折体験を語ることは、さほどマウント感を感じさせないだろう。しかし、これには確かなマウント効果がある。
理解できなかった本を明らかにするということは、それ以外の本を理解していることのアピールになる。つまり『精神現象学』は挫折したけれど『善悪の彼岸』は読んだという暗黙の主張がそこに含まれているのだ。
それに、「読書マウントのために本を読んでいるわけではない」というアリバイ作りにもなる。もし自慢のために読んでいるのならば、分からない本でも分かったフリをするはずであり、それをしないということは、本当に読書が好きなだけなのだ‥というわけだ。
(5)友達からビジネス書を借りて、一瞬で返す
これには2つの効果が期待できる。まず1つは、ライトなビジネス書であっても偏見なく読んでおり、本にランク付けをしてマウントを取ろうとしているわけではないというアピールになることだ。
もう1つの効果は、「ライトなビジネス書を読み通すなど造作もない」ということをアピールすることで、暗に「普段はもっと難解な本を読んでいる」ということをほのめかすことができるのだ。
そのため、どんな仕事よりも優先して最速で読み終えよう。パターン4と組み合わせて、読んでわからなかった点を伝えるのもいい。どうせ相手もわかっていないのだから。
(6)本屋で待ち合わせる
当日は、「少し早く着いたから中で立ち読みしてるわ~」と連絡を入れよう。そして、岩波文庫や講談社学術文庫を物色している様をまざまざと見せつけるのだ。
(7)カフェで本を読みながら待ち合わせる
(6)と近いのだが、少し早めに到着し、『カラマーゾフの兄弟』を読みながら待機しよう。
(8)大長編の後半の方を読む
『失われた時を求めて』の8巻あたりを読んでおくといい。1巻ではなく8巻にすることで、1巻~7巻まで読んでいることをアピールできる。もちろん、本当に読んでいる必要はない。
他にもいろいろやり方がありそうだ。思いついた人はぜひ教えてほしい。僕はマウントを取りたいのだ。
なお、マウントを取ったからと言って、何かメリットがあるわけではない。この場合、マウンティングという行為そのものがメリットになる。
マウントを取るのは楽しいということは誰でも知っているはずだ。しかし、あからさまにマウントを取ることは、さほど楽しくない。表面的には謙遜をしているのにもかかわらず、それにもかかわらずマウントを取っているときが最も楽しいのだ。
最高のマウンティングライフを送ろう。これからも。
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