感受の才能
職場の先輩が誕生日に本を贈ってくれた。
贈り物としての本が持つ価値は自分から手に取るものとは違って、他者が自分を浮かべて見繕ってくれた時間が含まれるから、重みがある。本とともにもらった一筆が嬉しくて、仮にその場しのぎのお世辞だったとしてもありがたく受け取ろうと思った。誕生日だし。
主人公 倫子が同棲する恋人にすべてを持ち逃げされ、着の身着のまま逃げるようにして故郷に戻るところからはじまる。
倫子に残されたのは祖母から受け継いだ糠床と、料理という特技。
「ひとつ、これなら」という自分の持つもので他者に喜びを与えられること、その喜びを自分の感情にできること。それって感受の才能だ。
料理を通して人々が互いに心を通わす物語に対して、もしかしたら失礼にあたるかもしれないが、倫子はきっと料理がなくたってその人となりで周りを豊かにできるはずで…。
でもそういう人が作るからこそ、より、視覚や味覚にプラスして多くの幸せを運べるんだろうな。
感受の才能が、とっておきの隠し味なのかもしれない。
お腹より、心を満たすごはんの話だった。