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02.山原の自然をこれ以上破壊するのはやめよう

「雨水をもっと大切にしたい。もっと有効に雨水を利用し、ダム建設によって山原の自然をこれ以上破壊するのはやめよう。」という願いから、私達は住宅を計画するうえで一家に一台、ミニダム建設を勧めています。

 沖縄は厳しい気象条件と地理的条件などから昔より水不足に悩みつづけてきました。

 沖縄には年間に消費される25倍をはるかに上回る約45億m3(世界の年間平均降水量の2倍以上)もの降雨がありながら慢性的な水不足に悩んでいます。それは月々の平均降水量が少なく、梅雨時の一時と台風によってもたらす集中豪雨であること、地形が急峻なために短い山を下り、貯水される前にみるまに海に流れ込んでしまう事に原因があると考えられます。

 先人たちは自然の恵みを生かそうと皆がそれぞれ雨水を貯水するための小さな施設(ダム)を造り、水不足に対処してきました。雨水を天水(テンスイ)と呼び貯水し、朝の一番茶などに使い「今日一日のカリー(幸運)をつける」などして大事に使ってきた歴史があります。

 しかし現在を見るとどうでしょう。県民一人ひとりの意識の希薄さもさる事ながら、つくる側である私たち設計に携わる者たちの意識の低さにも大きな責任があります。蛇口をひねると水がすぐ手にはいるという利便性や、クライアントの要望からせっかく計画していたにも関わらずコストパフォーマンスの甘さから断念してしまう現状があります。
 実際に、国連居住人間会議においても21世紀の初頭には、発展途上の都市を中心に深刻な水不足が発生し、水戦争が起きると警鐘を鳴らしています。

 自然の恵みを生かし、水の文化を創ってきた先人の知恵をもっと見習い、次の世代に更に快適な環境をバトンタッチ(サスティナブルデザイン)する為にも、今こそつくる側である私達が行動を起こすべきだと考えます。
 山を伐採し、自然を破壊し、ダムを造りみんなの暮らしは確かに豊かになりましたが、それと引き換えに周囲の自然をも破壊し続けています。開発によっておこる赤土流出などで青い海にあるサンゴ礁は傷つき、さらに特定天然記念物であるヤンバルクイナやノグチゲラなどの生息をも脅かしています。

 現在の沖縄の一般的な鉄筋コンクリート造住宅が坪あたり55万~65万だと考えると、例えば、クライアントが40坪の住宅を要望した場合には、工事費は2400万前後になります。
 雨水施設を造るには50~60万程度と考えますので、沖縄の水事情を訴え一坪分の金額は社会に貢献してくれるよう説得し、その代わり設計パフォーマンスで充分フォローできることを話す。その結果が社会貢献にもつながり、将来雨水利用のネットワークが広まって地球環境の保護に繋がれば、こんなに素晴らしいことはありません。

 日本を代表する建築家・清家清氏は、家づくりというのは、単に個人のための物でなく、その住宅に生活する家族だけの容れものでもなく、住環境の向上に資する物でなければならないと言っています。
 さらに憲法第25条には、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあります。建築家の仕事は、このような生活の本質を機能や性質を高め、繋げていくということにあります。

 つまりデザインや利便性,設備を整えるばかりが居住空間や生活を豊かにするわけではありません。もっとグローバルに物事を考えること。贅を尽くした家でなく、智を凝らした家であること。それが私達建築家に与えられたミッションではないでしょうか。


2001.4.1 門口安則


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