【第49回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第49回
「どうぞ」
舞衣に促され、なかへ入る。
通されたリビングには、大きなソファがあった。勧められてそこへ腰を下ろすと、舞衣はリビングと対面式になっているキッチンへ入っていった。
「コーヒーでいいですか」
佐方は舞衣のもてなしを、丁重に断った。弱っている舞衣に、余計な負担をかけたくない。
「舞衣さんも座ってください。いまから、ご主人が関係している事件について説明させてもらいます」
舞衣は少し迷うような素振りを見せたが、佐方に言われるまま、ローテーブルを挟んだソファに腰を下ろした。
「突然のことで、驚かれたでしょう」
佐方はそう前置きをしてから、本題に入ろうとした。しかし、それより早く舞衣が切り出した。
「あの人、強姦したんですか」
単刀直入に訊ねる舞衣に、佐方は一瞬、戸惑った。しかし、すぐに否定する。
「いいえ、彼はそんなことはしていません」
舞衣はなにかを問うように、佐方の目をじっと見つめる。舞衣が知りたいのは、合意があったかなかったかではないのだろう。夫が不貞を行ったのか否かなのだ。
佐方は一呼吸おいて、舞衣に伝えた。
「久保さんから伝言を預かってきました。傷つけて申し訳ない、と」
「あの人、浮気したんですね」
佐方はどう答えていいかわからなかった。ただ、ひとつだけはっきりと言えるのは、久保は無理やり女性を傷つけるようなことはしてないということだ。それだけは、理解してもらわなければいけない。
「久保さんが、今回、被害届を出した女性と関係を持ったことは事実です。しかし、被害者が言っているようなことは――」
「そんなことは、どうでもいいんです!」
舞衣が佐方の言葉を途中で遮った。強い怒りがこもった目で、佐方を睨む。
(つづく)
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