【第23回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第23回
第二章
軽トラックを運転していた大橋猛は、ある家の目の前に車を停めた。エンジンを切り、運転席から降りる。引き戸の玄関の横にあるチャイムを押して、なかに向かって声をかけた。
「原じい、おるか」
誰も出てくる気配はない。もう一度チャイムを押し呼ぶが、やはり同じだった。どうやら留守のようだ。
出直そうと思い軽トラックに乗りかけたとき、後ろから呼び止められた。
「おい、大」
道路の先に初老の男性がいる。原滋、この家の主だ。大橋は自分の父親よりも年上の原を、親しみを込めて原じいと呼んでいる。
大橋は原に向かって叫ぶ。
「届けもんだ」
大橋は助手席に置いていた紙袋を取り出し、原に向かってかざした。
「これ、ばあちゃんが、作ったから原さんとこに持って行けって」
そばまで来た原が、紙袋を受け取りなかを見た。嬉しそうな声をあげる。
「おお、はげ団子か。圭一と真由子も喜ぶ」
はげ団子は、小麦粉を練って作った団子にあんをまぶしたこの地方の郷土料理だ。半夏生の日や田植え、盆の時期に作り、神棚や仏壇にあげて家族で食べる。
原は腰をかがめて、隣にいる女の子に紙袋を差し出した。
「よかったな。大橋のばあちゃんが作るはげ団子は美味いけ。あとでいただこう」
女の子はそう言われても、黙ったまま俯いている。怒ったような顔で口をへの字に曲げたままだ。いつもなら嬉しそうにはしゃぐのに、なにかあったのだろうか。
(つづく)
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