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【第89回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。


【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

第89回

「どうして別れたんでしょう」
 佐方が訊ねると、築根は首を横に振った。
「そこまでは私も知りません。私に話してくれた女の子が言うには、急だったみたいで、ユウカさんはかなり落ち込んでいたようです」
 彼氏からフラれたことと、久保の件はなにか関係があるのだろうか。いまの時点では判断がつかない。
「その彼氏は、誰ですか」
 この問いにも、久保は首を横に振る。
「私はわかりません。ただ、私に話してくれた女の子か、シャルモンの女の子なら知っているかもしれませんね」
 築根に話した女性の名前は、小野おのかえで。シャルモンの近くに、化粧品の店舗を構えているという。店の名前は「ベラ・コスメショップ」。楓はそこに、自分がプロデュースした化粧品――ベラ・コスメを置いていた。
「シャルモンの女の子はミカといって、ベラ・コスメを使っているんです。だから、楓さんとはよく会っていて、いろいろな話をするそうです。客のこと、恋愛のこと、そして同じ店に勤めている人の話も。そのなかでも、ユウカさんの話はよくしていたみたいです」
 目立つということは、良くも悪くも、人の口に上るということだ。客からの評判がよく、見栄えもするユウカは、この界隈ではよく話題になっていたらしい。
「小野楓さんとミカさんからお話を聞きたいんですが、築根さんのお名前を出しても差し支えありませんか」
 佐方が訊ねると、築根は頷いた。
「別に隠すようなことではありませんから」
 そのとき、店のドアが開きカウベルが鳴った。
「やあ、マスター。今夜は冷えるね。あったかいコーヒーが飲みたいよ」
 常連と思しき初老の男性が、カウンター席に座りマスターに話しかけた。
 築根は男性と二言三言、言葉を交わすと、佐方に向かってさりげなく言った。
「コーヒーは私のおごりです。気をつけてお帰りください」

(つづく)


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『誓いの証言』は日曜・祝日を除く毎日正午に配信予定です。
マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!

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