【第35回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第35回
徳さんというのは、五人いる組合理事のひとりで、原じいの次に年嵩の職人だった。五人の理事のうち、勝也に反対しているのはふたり。原じいと、その徳さんだった。いくら原じいが職人のあいだで人徳を慕われているとしても、四対一ではさすがに分が悪い。
原じいは小さく笑うと、他人事のように言う。
「若社長も大変だな。いつの時代も、初代と二代目は比べられて、二代目のほうが風当たりが強いのが常だ。それも当然といえば当然だ。初代は一代で財を成し、二代目はそれをそのまま引き継ぐ形になる。妬みも含めて、周囲からは甘く見られ苦労知らずと囁かれる。それは若社長もわかっているんだろう。だから、自分を通そうと必死になる」
「あいつの事情なんかどうでもいいんだよ。このまま言う通りになったら、どうするんだよ」
のんびり構えている原じいに焦れ、つい大きな声が出た。
その声を聞きつけたのか、台所から晶がやってきた。
「どうしたの?」
原じいが答える。
「なんでもないよ」
晶は胡坐をかいている原じいの膝のあいだにすっぽり入り、振り返るように原じいを見上げた。
「ケンカはダメって、先生が言ってたよ。大さんも」
そう言って、晶が大橋を睨んだ。子供には、ふたりがケンカをしているように感じられたのだろう。大橋は晶に向かって、笑顔を作った。
「ごめんごめん。ケンカじゃないよ。原じいと仕事の話をしていただけだ」
(つづく)
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『誓いの証言』は日曜・祝日を除く毎日正午に配信予定です。
マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!
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