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【第24回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。


【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

第24回

「アキちゃん、どしたんな」
 女の子ははらあきら。原じいの孫だ。五歳になる。まわりはみんな、アキちゃん、と呼んでいる。近くの幼稚園に通っていて、ちょうどいま、原じいが迎えに行っていたところだった。
 大橋に訊かれても、晶は地面を睨んだまま、なにも言わない。代わりに原じいが答えた。
「丁場に入ろうとして、だまの若社長に叱られたんだ」
 今日、幼稚園の帰り道、丁場の前を通りかかった。晶が丁場が見たいというので、原じいが連れて行こうとしたとき、山のしたにある門のところで若社長と鉢合わせした。原じいが事情を説明したところ、関係者以外は入れるな、と厳しく言われたのだという。
 児玉の若社長の名前は児玉かつ――児玉興業グループの代表取締役だ。二年前に、当時社長だった父親の児玉けんが急逝し、跡を継いだ男だ。
 大橋の頭に、目を吊り上げて怒鳴っている勝也の顔が浮かぶ。まだ三十七歳と若く、自分がしっかりしなければ、という気負いのせいか、もともとの性格か、日ごろから小さなことにも目くじらを立てて、大きな声をあげていた。
「そんな、原じいが一緒じゃないか」
 大橋はそう言って、晶の目の前にしゃがんだ。小さな頭を撫でて、慰める。
「気にすんな。あいつはいつも威張ってるんだ」
 晶に人を悪く思う気持ちを抱かせたくないからか、原は大橋をたしなめた。
「そんなことを言うもんじゃない。若社長はアキが怪我をしたら大変だと思ったから怒ったんだ」
「違うよ!」
 いきなり晶が、原じいを見上げて叫んだ。

(つづく)


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『誓いの証言』は日曜・祝日を除く毎日正午に配信予定です。
マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!

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