【第44回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第44回
久保が一貫して変わらなかった供述は、ユウカとの行為は合意のうえであり薬など飲ませていない、というものだった。
荒っぽい事情聴取をすると、あとで問題になったら困る、とでも思ったのか、久保に対する岸谷の口調は、佐方のときよりも穏やかだった。佐方と向き合ったときの様子からすると、本心では、いますぐにでも胸倉をつかみ自白させたい、とでも思っているだろう。それを少しも感じさせないところは、なかなかの手練れだ。
目新しい内容がないまま、事情聴取は終わった。
久保は部屋を出るとき佐方に、みっつの頼みごとをした。ひとつは、妻への詫び。もうひとつは、久保が青山に持っている弁護士事務所に、通常どおり仕事を行うように伝えること。最後は、ユウカのことだった。ユウカがどうして自分を貶めたのか調べてほしい、と言う。佐方が力強く頷くと、久保は岸谷の部下に連れられて部屋を出て行った。
佐方は新宿署を出ると、小坂へ電話をかけた。
不機嫌そうな声が電話に出る。
佐方が端的にいまの事情を説明すると、声がさらに尖った。
「じゃあ、被害者に関することは警察からなにも教えてもらえなかったんですか?」
「ああ、そうだ」
携帯の向こうで、ええ、という裏返った声がした。
「警察がそこまで非協力的なのって、完全に久保がクロだと確信してるってことじゃないですか。いくら被害者が知られたくないって言ったとしても、ほんのわずかでも冤罪の可能性があったら、弁護人に名前や住所くらいは教えます」
「そんなことはわかっている」
佐方は言い返した。
「だから、今回はいつもより大変だ。調べなければいけないことが山ほどある。その心構えをしておいてくれ」
(つづく)
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マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!
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