【第10回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中！
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第10回
「ええ、どうしてですか」
明るかった小坂の表情が、一瞬にして曇る。
佐方は椅子にかけてあるジャケットを羽織った。
「俺を指名した相手は、大学で一緒だったやつなんだ」
「ご友人ですか」
訊かれてどう答えようか迷った。友人と呼べるほど親しかったわけではない。大学で四年、法科大学院で二年、合わせて六年のあいだ机を並べたが、寮の部屋で酒を飲んだり、どこかへ遊びに行ったりといった交流は数えるほどしかない。
人との関係性は、必ずしもともに過ごした時間の長さと比例するものではない、そう佐方は思っている。長く一緒にいても関りが浅い相手がいる一方、過ごした時間は短くても、深い繋がりを抱く相手もいる。佐方にとって久保は後者だった。
「行ってくる」
問いには答えずドアノブに手をかけた佐方に、小坂が重ねて訊ねる。
「逮捕された容疑はなんですか」
ドアを開けた佐方は、その場に立ち止まり振り返った。
「不同意性交等罪だ」
曇っていた小坂の表情が、嫌悪のそれに変わる。佐方は部屋を出てドアを閉めた。
（つづく）
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