【第42回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第42回
佐方は返答に窮した。被害者は明らかに久保を貶めようとしている。その理由が、久保も佐方も一番わからないことだった。
形勢逆転と見たのか、岸谷がここぞとばかりに攻めてくる。
「性被害ってのは、場合によっては被害者が辱めを受けるケースがある。それなのに、被害者はどうして嘘の被害届を出したんだよ」
「それは――」
佐方は答えられなかった。
岸谷は勝ち誇ったように、声を張り上げた。
「被害者の証言どおり、久保は被害者を無理やり襲ったんだよ。あいつは弱い人間の尊厳を踏みにじる、悪しき犯罪者だ」
佐方は奥歯を噛みしめた。岸谷を見ながら言う。
「そう、いまはまだ、被害者がどうして嘘の被害届を出したのかわからない。だがそれは、その理由がわかれば久保の無実が証明される可能性があるということだ」
岸谷が眉間に深い皺を寄せた。
「屁理屈もいい加減にしろ」
「屁理屈じゃない。俺は真実を明らかにしたいだけだ」
岸谷があきれたように、ため息をつく。
「さっき言っただろう。防犯カメラの映像、被害者の尿から検出された睡眠剤の成分、被害者の体内に残っていた加害者の体液のDNA鑑定の結果も、数日中に出るだろう。これだけの事実があるのに、いったいなにを明らかにするんだ」
「事実と真実は違う」
岸谷が怪訝そうな顔をした。佐方が話を続けようとしたとき、ドアがノックされた。
「入れ」
岸谷が言う。ドアが開いて、若い男が顔を出した。
(つづく)
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マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!
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