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【第43回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉

柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。


【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』

第43回

「久保が事情聴取に応じると言っていますが、どうしますか」
 男は岸谷と佐方を、交互に見ながら訊ねる。岸谷が男に言う。
「そっちの弁護士さんに訊け。こっちが勝手に決めて、あとであれは不当な取り調べだった、と言われたら困るからな」
 岸谷の嫌味を聞き流し、佐方は男に訊ねた。
「本人の様子はどうですか」
「留置係の話によれば、だいぶ落ち着いているそうです」
 時間が経てば、記憶は薄れていく。久保の体調が問題ないならば、少しでも早く事情聴取を行ったほうがいい。
「行きましょう」
 佐方は椅子から立ち上がった。岸谷も腰をあげながら、若い男に向かって言う。
「すぐはじめる。準備をしてくれ」
 はい、と返事をして男が部屋を出ていく。岸谷は、ついてこい、と言うように、佐方に向かって顎をしゃくった。
 男が言っていたとおり、取調室の椅子に座る久保は接見室で会ったときより落ち着いていた。青白かった顔には少し血の気が戻り、眼差しもしっかりしている。佐方の顔を見ると、頼む、というように軽く頭をさげた。
 取り調べは、岸谷が行った。相談室へやってきた若い男――刑事課の部下は、部屋の隅で記録をとっている。佐方は部下とは逆側の隅で椅子に座り、事情聴取に立ち会った。
 岸谷の質問に対する久保の答えは、接見室で佐方が聞いたものとほぼ変わらなかった。岸谷の問いが、ホテルでの行為に及ぶと久保は黙り込んだ。
 被疑者は自分に不利になると思われることは言わなくてもいい黙秘権を持っている。ユウカがなにを考えているかわからないいまは、余計なことは言わないほうがいいと判断したのだろう。

(つづく)


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『誓いの証言』は日曜・祝日を除く毎日正午に配信予定です。
マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!

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