【第19回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第19回
警察官が佐方に訊ねる。
「なにかありましたか」
佐方は久保を見ながら、警察官に答える。
「気持ちが高ぶっているので、少し休ませてください。事情聴取はそれからお願いします」
命じるような言い方が気に障ったのか、警察官は厳しい表情で言う。
「休みが必要かどうかは、こちらで判断します」
佐方は視線を、警察官へ向けた。
「私はたったいま、久保利典さんの私選弁護人になりました。彼を休ませることは、弁護人である私からの要求です。この要求を受け入れないならば、私は警察へ抗議します」
抗議を受けたら厄介だ、そう思ったのだろう。警察官は不服そうな顔をしながらも、佐方の要求を受け入れた。
佐方は椅子から立ち上がり、警察官に向かって言う。
「今回の接見はここで終わります。久保さんを休ませてください。それから、事情聴取には私も立ち会います。時間が決まったら連絡してください」
佐方は久保に同意を求めた。
「いいな」
久保は小さく頷く。
警察官は久保に退室を促した。久保はまだなにか言いたそうな顔をしていたが、諦めたように部屋を出て行った。
接見室を出た佐方は、廊下の突き当りまで行くと、あたりを見回した。人がいる気配はない。持っていたバッグから自分の携帯を取り出す。小坂に電話をかけるためだ。
画面を開いた佐方は、着信履歴の数に眉根を寄せた。接見している一時間ほどのあいだに、六件も入っている。
すべて小坂からだった。留守電になにかを吹き込んでいるようだが、聞かずに電話をかける。確認するより連絡したほうが早い。
(つづく)
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