【第46回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第46回
小坂は歯切れの悪い口調で答える。
「どうして久保さんは先生に頼んだんだって。ほかにもっと、その――」
言えずにいる小坂の代わりに、佐方が言う。
「もっと優秀な弁護士がいるのに、どうしてあんな偏屈なやつに依頼したのか――ってことか」
小坂は慌てた様子で否定した。
「偏屈とは言っていません」
「どうせ同じようなことだろう」
返事がない。それが肯定を意味していた。
佐方は苦笑した。
「お前が気を遣う必要はないだろう。いつも俺を、偏屈なやつ以上に言ってるじゃないか」
悔しそうに小坂は言う。
「私が言うのはいいんです。でも、ほかの人が言うのは許せません」
まるでいじめっ子の言い分だ。
「それで、なんて答えたんだ」
佐方が訊ねると、なにも、という言葉が返ってきた。
「事件に関しても被疑者に関しても、まだなにもわかりません。そう答えておきました。それから、先生に対する失礼な言葉に対しても、否定しませんがきっちり言っておきました。人間性はさておき、うちの先生は引き受けた依頼は、どこの弁護士よりも全力で取り組みます。その点はご安心くださいって」
自分の雇人を擁護しているのか、批難しているのかわからない。とりあえず感謝の意を伝えると、小坂は疲れたような声でつぶやいた。
「これ以上、先生のあらぬ噂が広がって、依頼がなくなったら私も困りますから」
電話を切ると、佐方はタクシーに乗り込んだ。舞衣がいることを願い、久保の自宅へ向かう。
久保が住んでいるマンションは、六本木にあった。西麻布よりの静かな一角で、ファミリー層にも人気がある場所だ。
(つづく)
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マガジン「【連載】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉」に各話をまとめていきますので、更新をお楽しみに!
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