【第12回】『誓いの証言』柚月裕子〈佐方貞人シリーズ弁護士編〉
柚月裕子さんによる小説『誓いの証言』連載中!
「佐方貞人」シリーズ、待望の最新作をお楽しみください。
【連載小説】柚月裕子『誓いの証言』
第12回
「なにがあった」
久保は佐方から目をそらした。無実を訴えながらも、なにかしらやましいことがあるらしい。
佐方は質問を変えた。
「被害届を出した相手は、知っている女か?」
佐方が訊ねると、久保は頷いた。
「行きつけのクラブのホステスだ」
店での名前はユウカ、年齢は二十代半ばだという。店は銀座にあるシャルモン。久保はそこに、三か月まえから通っていた。
「ユウカとは、そこで知り合った」
こぢんまりとした顔立ちで、派手さはない。しかし、目鼻立ちが整っていて品のよさを感じたという。
「ちょっとした仕草も言葉遣いも丁寧で、俺はひと目で気に入った。だから、店に行くときは必ず彼女を指名していた。だが――」
そこまで言って、久保は俯けていた顔をあげた。
「俺は相手が嫌がるようなことはしていない。手を握るどころか、身体にも一切触れていなかった」
佐方は久保をじっと見つめた。
「いなかった――過去形ということは、いまの時点においては、そういう行為があったということだな」
久保は再び俯いた。
「ああ、昨日の夜、彼女と寝た」
久保は昨日、シャルモンへ行った。ある案件が片付き気分がよく、いつもより酒を飲んだ。店が終わる時間になっても家に帰る気にならず、次の店に行こうと考えていたとき、ユウカがアフターに誘ってきた。
気に入っているホステスからの誘いを、断る理由はない。ユウカが着替え終わると、久保は一緒に店を出た。そして、バーで少し酒を飲み、そのあとホテルへ行った。すべては合意のうえであり、被害届が出されるようなことはしていないという。
(つづく)
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